本研究は、中途身体障害者のエキスパートスポーツ選手(運動機能障害、四肢切断及び視覚障害等を中途で受傷し、その後パラリンピック等の国際競技大会に出場した選手)を対象とし、彼らの受傷体験から卓越した競技力を獲得するまでの自己変容過程を明らかにすることを目的とした。 データ収集は、「語り手の主観的意味世界における認識や解釈枠組みそのものに焦点を当てる、対話的構築主義に依拠したライフストーリーの立場」(桜井,2002)に準拠し、半構造的面接により実施した。なお、面接は、筆者と対象者による1対1で行い、対象者本人の了解を得た上で、そのすべてをボイスレコーダーで録音しトランスクライブを行った。面接調査の結果は、個人内の体験の意味を大切にするために個性記述的アプローチを採用し、対象者ごとに調査面接の事例としてまとめていった。 結果として、対象者は受傷後、怪我や障害を受容せざるを得ず、代替選択肢を必要としていること、また障害者(アスリート)として意味を見出しながら、リハビリや義足でのトレーニングへ自己を投資していく様子が明らかとなった。その後、本格的にパラリンピックを目指して、新たな競技者人生をスタートさせ、パラリンピック等を経験し、再びトップアスリートとしての自己再生を果たす。そして、こうした一連の経験を通し、「ブレなくなった」、「考え方が変わった」、「あるべき姿が分かってきた」のように、「人間として」の自己再生も果たしているという、中途身体障害を経験したエキスパートスポーツ選手の自己変容過程が明らかとなった。 現在は東京パラリンピックの開催に向け、障害のあるトップアスリートへの強化・支援の確立が求められる時代ゆえに、本研究のように障害者スポーツ選手をエキスパートスポーツ選手として扱い、彼らの競技力向上へとつながる研究が必要不可欠となってくるであろう。
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