平成27年度は、前年度に得られた融合寺院のヒアリングおよび実測データを整理し、融合寺院化の背景や経緯・内部空間およびその使われ方の特徴について分析を行ない、その成果の一部を日本建築学会大会(東海大)において発表した。 第3回現地調査を実施した(2015年8月24日~9月2日)。典型的融合寺院のヒアリング・実測の補足的調査を行なうとともに、街区スケールにおける融合寺院の影響を明らかにするために、2000年に実施した街区の空間構成調査の後追い調査を行なった。融合寺院約30件について、図面やテキストでは把握・表現の難しい特徴的な内部空間の、専門的技術と機材を用いた写真撮影を実施した。融合寺院の内部空間の記録写真は、管見の限り世界初の試みであり、実測図とあわせて、インドの居住文化とヒンドゥー教の建築観の理解に資する貴重な資料である。さらに、ヴァーラーナシーとの比較の視点から、ゴア旧市街においてインドにおける宗教施設の変容に関する視察を行なった。 本研究では、融合寺院という現象の空間構成の特質、形成の条件と過程、周辺および景観への影響を、都市・建築・街区の各スケールにおいて明らかにしようと試みてきた。その結果、対象地の寺院の4割が融合寺院となっていること、この現象が100年以上前から継続的に生起していること、住居の床面積増大という開発圧力を受容し、また土地と寺院の一体的売買など所有権の変化がありつつも、宗教やコミュニティの規範に基づく寺院を維持する強い力が働いており、寺院が変容する都市内の〈定点〉として作用し、都市空間における時間的表現や聖地としての特性の維持に関与していることなどが明らかとなった。とりわけ、融合寺院という特徴的な建築現象の物理的実態について、写真および図面により記録したことは大きな成果と考える。今後は研究期間全体を通した成果をとりまとめ、論文や展覧会等を通じて社会的に公表していく。
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