腫瘍細胞の低栄養環境の適応は、癌細胞の悪性化へと繋がることから、その適応機構の解明が期待される。研究代表者はこれまでにムチン型糖鎖の合成開始酵素の一つであるppGalNAc-T17が、ヒト胎生腎臓由来HEK293T細胞において、細胞の栄養状態の指標である細胞外N-アセチルグルコサミン濃度に依存して発現調節を受け、細胞外液成分の細胞内への取り込み機構であるマクロピノサイトーシスを制御していることを報告した。古くから腫瘍細胞では、正常細胞ではみられない活発なマクロピノサイトーシスにより、恒常的に細胞外液の取り込みを行うことが知られているが、その生理的な意義は不明であった。2013年にある種の悪性腫瘍細胞がマクロピノサイトーシス経路により細胞外タンパク質を積極的に取り込み、アミノ酸の獲得に活用していることが報告され、腫瘍細胞特有のアミノ酸獲得経路として注目された。研究代表者はいくつかの株化細胞や悪性腫瘍細胞におけるマクロピノサイトーシスの定量化を行ったが、細胞種間におけるマクロピノサイトーシス能の有無には明確な法則性を発見することはできなかった。一方で、HEK293T細胞に対して種々の糖類やアミノ酸を添加することによりマクロピノサイトーシスへの影響を測定したところ、N-アセチルグルコサミン以外にも、高濃度のグルコースやN-アセチルガラクトサミン、アルブミンの添加によりマクロピノサイトーシス活性が上昇することを明らかにした。このうち、N-アセチルグルコサミンやN-アセチルガラクトサミンの添加ではppGalNAc-T17の転写誘導がみられたのに対し、アルブミンの添加ではみられなかったことから、マクロピノサイトーシスの調節機構にはppGalNAc-T17依存的経路と非依存的経路が存在するが示唆された。
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