研究課題/領域番号 |
25870901
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
吉田 憲司 千葉大学, フロンティア医工学センター, 特任助教 (10572985)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | マイクロバブル / 標的指向化 / 抗原・抗体反応 / ビオチン-アビジン結合 / 横波モード圧電共振子 / 水晶共振子 / 共振特性 / Maisonの等価回路 |
研究概要 |
超音波とマイクロバブルの相互作用を利用するドラッグデリバリーシステム(USDDS)は、生体内での薬物投与を時間的、空間的、量的に制御可能な次世代治療技術として期待されている。標的指向型マイクロバブルが治療部位に特異的に吸着することにより、薬物投与を部位選択的に行うことが期待される。研究期間内において、標的指向型マイクロバブルの製作を行い、標的指向能力(付着効率、付着時間)の評価手法として横波モード圧電薄膜共振子を用いたex vivo計測システムを提案し、定量的評価を行うことを計画している。 抗原をビオチン-アビジン結合を介してバブル表面に固定化させた標的指向型バブルの作成を目標としている。ビオチン、及びアビジンを表面に固定化したバブル(目標とするバブルの前躯体)の作成に成功している。 計測システムとして、抗原抗体反応のモニタリングシステムとして既に構築済みのZnO薄膜共振子を用いた流路システムの他に、新たに水晶共振子(QCM)を用いたシステムを構築した。QCMを用いたシステムは流路方式ではなく、センサ表面に液体を滴下する方式である。両者において前躯体バブルの標的指向能力の検証を行った。ZnO薄膜共振子を用いた流路システムではセンサ表面に標的物質を固定化することが難しいこと、計測の安定性が悪いなどという理由から、QCMを採用した。提案システムを用いることでバブルの標的指向能力を定性的に評価可能であることを実証し、論文発表を行った。 標的指向型バブルの標的部位(センサ表面)への特異的吸着量を定量的に示すためには、理論モデルを構築することが必要である。QCMシステムにおいて蓄積した計測結果をもとに、バブルの特異的吸着によりセンサの共振特性が変化する要因を精査し、Maisonの等価回路と呼ばれる圧電体の振動をあらわす電気回路モデルにバブルの影響を組み込んだ理論モデルの構築を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成25年度では、1)抗原をバブル表面に固定化させた標的指向型バブルの作成、2)微小な流路をセンサ表面に配置した流路システムの構築とその自動化、3)バブル吸着量の定量評価ための理論モデルの構築を実施項目とした。一点目について、抗原の固定化には至っていないが、ビオチン、及びアビジンを表面に固定化したバブル(目標とするバブルの前躯体)の作成に成功した。二点目に関しては、実績があるZnO薄膜共振子を用いたバイオセンサシステムを転用する予定であったが、計測システムをマイクロバブル計測用に調整するためには多くの変更点、改善点があり相当の期間と費用を要することが想定されたため、QCMを用いた滴下式システムの構築に方向転換した。今後、QCM表面に微小流路を設置した流路システムを構築し、計測システム全体の自動化を図る。三点目に関して、理論モデル構築のため、QCMを用いた滴下式システムにおいて計測を繰り返しデータの蓄積を行い、センサの共振特性が変化するメカニズムについて検討した。その結果をもとに、マイクロバブルの吸着による共振特性の変化を予想するための理論モデルを提案した。 実施項目1)、2)に関しては、予定よりも進捗が遅れている。ただし、後者に関しては予定していた計測システムから大幅な変更があったにもかかわらず、バブルの特異的吸着を評価可能なシステムを構築することに成功した。実施項目3)に関しては当初の予定通りに進捗している。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度は、1)QCMを用いた流路式システムの構築、2)前躯体バブルを用いたシステムの性能検証を目指す。抗原固定化バブルを作成するためには高額の薬品の購入が必要になる。そのため、本年度実施項目から抗原固定化マイクロバブルの作成を除外し(既に作成に成功しているビオチン化バブルを用いることでも計測システムの動作確認ができるため)、計測システムの構築に専念する。当該テーマでは、生体内環境を模擬した環境においてバブルの標的指向能力を評価することを目指している。そのためには、毛細血管を模擬したマイクロ流路をセンサ表面に設置し、さらにはその流量を制御できるシステムを構築する必要がある。サイズが数十~百μm程度のPDMS製マイクロ流路を製作し、QCM表面上に固定化できる機構を考案する。流量を調整するためのシリンジポンプを組み込み、流速を数mm/s~数十cm/s程度の範囲内で調整可能なシステムを構築する。最終的には、シリンジポンプとQCMの共振周波数を計測する機器(ネットワークアナライザ)の動作制御を自動化したシステムを構築する。 生体内におけるバブルの標的指向能力を推測するために必要なデータ蓄積を行う。具体的には、構築したシステムを用いて、バブルの標的指向能力(付着効率、付着時間)をQCMの共振周波数もしくはQ値の変化として定性的に評価する。特に,送液する液体中のバブル濃度や流速などのパラメータを変化させた場合にどのように標的指向能力が変化するかを検証する。バブル濃度や流速などは臨床応用で想定される条件をもとに設定する。 上記実施項目と並行して、平成25年度に構築した理論モデルを発展させ、QCMの共振特性の変化からバブル吸着量を定量的に推定できる理論式もしくは理論モデルを提案し、その妥当性を検証する。
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次年度の研究費の使用計画 |
計測システムとして、当初の段階においては抗原抗体反応のモニタリングシステムとして既に構築済みのZnO薄膜共振子を用いた流路システムを転用することを想定していたが、計測システムをマイクロバブル計測用に調整するためには多くの変更点、改善点があり、代用システムとして水晶共振子(QCM)を用いたシステムを構築するという計画に変更した。当初の計画では、実験時に必要な超純水を製造する装置の購入を計画していたが、これを変更し、新しいQCMを用いたシステムを構築するための費用に充当することとした.計画変更により進捗が遅れているため、必要備品のリストアップ及び購入が進んでいないことが次年度使用額が生じた理由である。 次年度の計画では、QCM表面に微小流路を設置した流路システムを構築し、計測システム全体の自動化を予定する。次年度使用額の一部は、システム構築に必要な経費として、QCMセンサ(消耗品)、循環水用ポンプ、高周波ケーブル等の計測用備品の購入費に割り当てることを予定する。また、QCM表面上の微小流路システムの試作品を自作で作成し、動作を検証した後、流路などのサイズを精密に調整するためその製作を外部発注することを予定している。そのため、材料費や外部発注費用などを微小流路システムの作成に必要な経費にも充当することを予定する。
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