研究課題/領域番号 |
25870908
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研究機関 | 神奈川工科大学 |
研究代表者 |
井上 英樹 神奈川工科大学, 応用バイオ科学部, 准教授 (20550156)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | シグナル伝達 / インスリンシグナル / ユビキチン化 |
研究実績の概要 |
平成26年度の本研究計画では、E3ユビキチンリガーゼであるNHL-1と相互作用する因子の単離と解析を主に進めた。NHL-1相互作用因子を得るためにYeast Two Hybridスクリーニングを行い、約200,000クローンから55の独立したポジティブクローンを単離し、28の候補遺伝子を同定した。このうち、転写因子FLH-1、E1およびE2ユビキチン化酵素、アスパラギン酸プロテアーゼASP-10について最初に着目し、遺伝子のクローニングおよび機能解析を行った。E1およびE2ユビキチン化酵素、ASP-10については哺乳動物まで保存されているため、線虫および哺乳動物の系を用いて解析を行った。FLH-1についてはNHL-1とin vitroでタンパク質の相互作用を確認するとともにFLH-1がインスリンシグナルと遺伝学的に相互作用する結果が得られており、引き続き解析を進める。線虫および哺乳動物それぞれのE1およびE2ユビキチン化酵素についてはクローニングを行い、NHL-1/TRIM3ユビキチン化機構とその基質について解析を行う。アスパラギン酸プロテアーゼASP-10については、その哺乳類ホモログ、カセプシンE(CTSE)をクローニングし、TRIM3との関係について解析を行った結果、CTSEがTRIM3をin vitroの系で切断した。この結果から、CTSEがNHL-1/TRIM3活性化機構に重要な役割を果たすことが強く示唆された。スクリーニングで得られた他の候補遺伝子についても順次解析を行う。 また、TRIM3の生理的役割について哺乳動物培養細胞を用いて解析を行った結果、TRIM3の発現が細胞増殖抑制とストレス耐性の増加を引き起こすこと、TRIM3がp21やp27など細胞周期抑制遺伝子およびMnSODやGADD45等抗ストレス遺伝子の転写を促進することを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度はNHL-1と相互作用する因子の単離とそれら因子の機能について解析し、当初の課題であったNHL-1/TRIM3による間接的なDAF-16/FOXO1ポリユビキチン化抑制作用の機構について明らかにすることを試みた。スクリーニングの結果、ユビキチン化の活性化に必要なE1およびE2ユビキチンリガーゼが単離されたため、E1, E2およびNHL-1/TRIM3を介したユビキチン化機構とその標的となるタンパク質について検討する下地が得られた。 これまでに、NHL-1変異体はそのC末端側が欠損しているが、常時活性型変異体であることを見出している。このため、野生型NHL-1/TRIM3タンパク質はそのC末端側によって不活性であると考えられる。今回のスクリーニングにより得られたASP-10の哺乳類ホモログCTSEがTRIM3をin vitroで切断した。そのため、ASP-10/CTSEによるプロセシングを介してNHL-1/TRIM3が活性化することが強く示唆される結果が得られた。また、哺乳動物細胞を用いた解析では、TRIM3が細胞増殖を抑制する役割を持つことを見出した。これらの結果から、スクリーニングの目的はおおむね達成されたこと、NHL-1/TRIM3活性制御の手がかりとなる結果も得られたため、研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は、NHL-1相互作用因子のスクリーニングによって得られた候補因子とNHL-1/TRIM3を用いて以下の①~③に焦点を当ててNHL-1/TRIM3を介したインスリンシグナル制御機構解明についての研究を進める。 ①ASP-10/CTSEによるNHL-1/TRIM3活性化の分子的なメカニズムの解明を行う。②平成26年度のスクリーニングにより単離、同定したE1, E2およびNHL-1/TRIM3によるユビキチン化機構とDAF-16/FOXO1安定化の関係についての解明を行う。③TRIM3による細胞増殖抑制機構について、これまではがん細胞由来の細胞株を用いていたため、ヒト正常細胞を用いて細胞増殖抑制だけでなく細胞老化の観点からも解析を行う。 以上について哺乳動物培養細胞を用いた生化学的および細胞生物学的手法を中心として研究を行う。
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