研究課題/領域番号 |
25870921
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
石井 大輔 東京大学, 農学生命科学研究科, 助教 (70415074)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 芳香族ヒドロキシ酸 / セルロース誘導体 / 溶剤可溶性 / 熱可塑性 |
研究実績の概要 |
本年度は平成26年度までの検討結果をもとに、アセチル化フェルラ酸とセルロースのエステル化反応条件の検討を行い、その成果として溶剤可溶性および熱可塑性を有するセルロース芳香族エステルの作製に成功した。以下その概要を記述する。 アセチル化フェルラ酸と無水トリフルオロ酢酸の混合物に市販の微結晶セルロースまたは綿セルロースを分散させ、微結晶セルロースについては最大24時間、綿セルロースについては最大72時間反応を行った。反応時間に対するアセチル化フェルラ酸のセルロース水酸基への導入率を調べたところ、微結晶セルロースでは反応時間8時間で最大値73%(置換度2.2)となり、綿セルロースでは48時間で最大値67%(置換度2.0)となった。それ以上の反応時間ではいずれのセルロースでも導入率は低下した。 これらアセチル化フェルラ酸セルロースは、クロロホルムやアセトンに可溶であり、ゲルろ過クロマトグラフィーにより重量平均分子量は微結晶セルロース由来のもので最大11万、綿セルロース由来のもので最大70万と求められた。分子量がより大きな綿セルロース由来のアセチル化フェルラ酸セルロースについては溶剤キャスト法による製膜にも成功した。 アセチル化フェルラ酸導入率に対する各種熱物性値の傾向を調べたところ、ガラス転移温度は導入率の増大に伴い165℃から150℃に低下し、逆に5%熱重量減少温度は導入率の増大に伴い297℃から317℃まで増大した。これらの結果はアセチル化フェルラ酸導入率の増大により成形温度範囲が拡大したことを示すものである。以上の結果より、熱可塑性及び溶剤可溶性を示すセルロース芳香族ヒドロキシ酸エステルの合成に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度の検討結果により、本研究課題の目標の一つである溶剤可溶性および熱可塑性を有する、高加工性のセルロース芳香族ヒドロキシ酸エステルの作製に成功した。その一方、得られたセルロース芳香族ヒドロキシ酸エステルの抗菌性評価に関しては、当初予定の研究期間である本年度中までに実施できていないため、平成28年度に研究期間を延長して実施する。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度には、セルロース芳香族ヒドロキシ酸エステルの抗菌性評価を行い、セルロース芳香族ヒドロキシ酸エステル中の芳香族ヒドロキシ酸導入率との相関や、化学構造(芳香族ヒドロキシ酸の末端水酸基保護の有無)の影響に関して検討を行う予定である。また本年度の成果をもとにセルロース以外の天然多糖(カードラン、グルコマンナン、プルラン)への展開も図る。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初研究計画において平成27年度中に実施する予定であった、セルロース芳香族ヒドロキシ酸エステルの抗菌性評価に関して、平成28年度に課題実施期間を延長して行う必要が生じたため。
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次年度使用額の使用計画 |
セルロース芳香族ヒドロキシ酸エステルの作製と抗菌性評価のため、作製に必要な消耗品(試薬およびガラス器具等)および抗菌性評価を実施するための必要経費(専門の評価機関における受託分析費用など)として使用する。
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