研究課題/領域番号 |
25870929
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
菅原 慶乃 関西大学, 文学部, 教授 (30411490)
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研究期間 (年度) |
2013-02-01 – 2017-03-31
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キーワード | 観賞マナー / 映画館 / 大衆エリート / 識字率 / 説明書 / 映画観客 |
研究実績の概要 |
本研究が当初想定していた映画の社会的地位の変遷にかんする三つの側面、すなわち(A)映画文化の確立と深化、(B)映画と社会思潮との結びつき、(C)政治による映画の包摂、のうち、(B)と(C)で想定していた「外国の映画会社による民族系映画会社の支配への抵抗」という仮説を修正し、映画界におけるより多様なナショナリズムのあり様を浮き彫りにする必要が生じたことは、前年度の報告書で述べた通りである。そこで本年度は、民国期の映画の中心上海において、映画観賞マナーの成熟が、特定の文化規範を共有する均質的な新興中間層を創出していった過程に着目した。いわゆる知識エリート層には属さないものの、職業人としての成功を追求する一方で社会教育や識字率の向上に大きな関心をもっていた「大衆エリート層」だったこの新興中間層の映画観客たちは、映画観賞マナーの向上や、映画観賞の理解を助ける映画説明の向上を盛んに訴え、規範的な映画観客像を作りあげた。さらにかれらは、外国映画による国産映画への「悪影響」、とりわけ犯罪描写やポルノグラフィーのような社会風紀上好ましくない映画表現にたいしても旺盛に批判を展開し、ナショナリズムの隆盛を外国映画批判という方向から補強した。1920年代後半から1930年代初頭にかけて確立したこの規範的な映画観客たちは、1930年代の「左翼映画」の主な支持層となり、映画を通じた半帝国ナショナリズムに寄与することでネイション・ビルディングの一躍を担うこととなったのだった。 他方、規範的な観客の実質化が、本来の多様な社会階層・文化背景を持っていた上海の映画観客から、こども、女性、非識字者などを排除していったことも確認した。このうちこどもの観客については未来の社会の担い手としての認識が高まった1930年代半ばに「規範的な映画観客」の一部として明確に位置づけられるようになったことを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画から軌道修正したものの、結果的には、映画の社会的地位が「通俗」から「政治」の有効な工具であると認識されるにいたるまでの過程をより具体化、明確化することができた。
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今後の研究の推進方策 |
H28年度は最終年度であるため、これまでの研究を総括する。すでに刊行した論文に加えて新たに研究をまとめ、書籍の出版を準備する。すでに出版社との打合せを開始しており、H29年度の科研費(研究成果公開促進費)への応募を目指す。
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