研究実績の概要 |
本研究は民国期上海における映画の社会的位置づけを多角的に検討することを目的としてきたが、本年度はこれまでの成果をまとめると同時に、その成果をより広く公表するための諸作業を中心に行った。 具体的には、これまでの成果を「映画観賞の近代化と国民形成」という観点から再整理し、さらに映画統制にかんする新たな論考を追加して書籍としてまとめ、2017年度科研費(研究成果公開促進費・学術図書)へ申請した。結果は不採択となったが、本科研の研究成果として位置づけるべく近年中に刊行する予定である。 研究成果の公開については上述の書籍刊行に加え、すでに公表した論文の翻訳も行った。「「猥雑」の彼岸へ――「健全なる娯楽」としての映画の誕生と上海Y.M.C.A.」(2013年度)は英語へ翻訳し、2017年末に刊行される予定の英語書籍(Emilie Y.Y.Yeh ed.. Kaleidoscopic Histories: Early Film Culture in Hong Kong, Taiwan and Republican China. University of Michigan Press)の一部として収録された。今年度発表した「「理解する」娯楽――映画説明成立史考」は中国語版の翻訳を監訳した。これは近日中に中国の学術雑誌に掲載される運びである。 今年度はさらに、上海YMCAの映画上映活動について追加の資料調査をミネソタ大学のカウツ・ファミリーYCMAアーカイブズにおいて遂行した。調査対象は1910年代から1920年代にかけての「演講部」関連資料、同会において教具としての幻灯・映画の開発と運用に尽力したSecretaryの個人ファイル、及び実際の講演などで用いられた幻灯資料である。これにより、教具としての幻灯・映画を積極的に運用した上海YMCAにかんする研究成果を補強することができた。
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