本研究は、自然災害後に集団移転復興を余儀なくされた集落の人びとが10年という期間を経過する中でどのような生活環境の変化をおこない、新しい生活への適応して行ったのかを明らかにするもので、①集落内での関係性の変化、②移転における「過去」と「未来」の比重、③新しい場所での価値の3つの視点から「そこに住み続ける」にいたる過程とその意味について検討するものであった。 本年度は、わが国における災害後の集団移転法の契機ともなった天草大水害の被災地復興を整理し、聞き取り調査や文献調査を実施して、昭和47年当時に度のような視点から法整備を実施し、今現在どのような生活を人びとが送っているのかを明らかにした。その結果、当時の災害後の集団移転法は天草という離島に住む人々が、できる限り地元に住むことができるように考えられた「制度を災害にあわせた」政策であったことが分かった。しかし現在に至るまで大幅な見直しがされる事はなく、近年の自然災害の被害に見合った制度とは言い難い政策になっていることも指摘できる。 また、スリランカの集団移転の事例では、昨年度に引き続き継続調査を実施し、移転から10年が経過した集落でグループディスカッションをおこなった。移転によって得られたものや集落の課題について、移転復興経験者と災害後に引越しをしてきた住民15名が参加し、集団移転とその後の生活について話し合う場を設定、参加者が発表する機会を設けることができた。移転の課題としては、集落内外の人間関係よりも、自宅の劣化に伴う問題が住民の共通問題として挙げられる結果となり、住処の快適さの継続が生活の基盤になっていることが推測できた。
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