今年度実施した研究の主な成果は以下の通りである. 1. 粒径の異なる同一種の鋼に対し,浸炭処理による深さ方向の炭素濃度の変化,硬さの変化および析出した炭化物の元素マッピング分析を行った.粒径,炭素濃度,硬さおよび炭化物の割合・形状・寸法が,工具摩耗抑制と仕上精度向上に及ぼす影響を調査した.その結果,粗大な炭化物が析出する表面近傍と微細な炭化物のみが析出する試料内部では,炭素濃度および硬さの変化が工具摩耗抑制に及ぼす影響が異なっていることを明らかにした. 2. 窒化処理による工具摩耗抑制効果が高かったステンレス鋼について,断続切削における切削距離に対する超精密切削特性調査を行った.その結果,切削距離を延ばすとダイヤモンド工具は緩やかに摩耗が進み,昨年度までに実施した連続切削よりも少ない摩耗量で推移した.一方,仕上面精度については,昨年度までに実施した連続切削と比べて変動が大きかった.これは断続切削では試料寸法の制約から,様々な深さの窒化層を切削したためではないかと考えられる.次に,工具摩耗抑制効果の異なる複数のステンレス鋼についてX線回折および元素マッピング分析を行った.その結果,鋼材内のCrは窒化処理によってCr窒化物として析出し,その析出量が多いほど摩耗抑制効果が高いことがわかった.また,Cr窒化物が粒界に析出することで,工具摩耗抑制効果が高くなることを明らかにした. 3. 純鉄中へのダイヤモンド中の炭素拡散挙動を調査するために分子動力学法を用いた解析を行った.その際,圧力および相対速度を変化させ,その影響を調べた.その結果,圧力を加えることでダイヤモンドから解離した炭素原子が純鉄中に侵入する割合が増加した.また,相対速度を与えることで解離した炭素原子が侵入する割合が減少した.
|