近畿大学奄美実験場のクロマグロ養殖場においてサンゴが群棲しているこの事実は、至妙な物質循環が成立していることを示唆する。本研究課題では、サンゴが放出する粘液に注目して、この物質循環を支える細菌を解析した。具体的には、5年間に亘って採取した海水試料ならびに粘液試料、および海水と粘液を混合した試料を用いた。平成26年度は、1.各試料における細菌生産速度を測定し、2.海水および粘液試料において増殖活性のある細菌種を次世代シークエンス解析(Illumina社MiSeq)によって特定した。あわせて、3.非養殖場域においても同様の結果が得られるのかを調べた。 1.細菌生産速度は、粘液を加えた方が有意に高くなっており(p < 0.01)、最大で17.8倍となった。このことは、サンゴ粘液がクロマグロ養殖場海域における細菌生産を支えていることを示唆する。 2.サンゴ粘液によって増殖が促される細菌種とそうでない細菌種が存在していた。増殖が促される細菌種としては、Alphaproteobacteriaに属する細菌種が常に優占していた。一方で、増殖が抑制されていた細菌種としては、Gammaproteobacteriaに属する細菌種が顕著であった。Bacteroidetesでは、同じ細菌種でも、増殖が促される細菌種として優占するときもあれば、逆に増殖が抑制されるときもあった。 3.非養殖場海域においても、サンゴ粘液による周辺海水の細菌生産量の増加が確認できた。養殖場海域と同様にAlphaproteobacteriaおよびBacteroidetesに属する細菌種を増殖が促される細菌種として特定した。 これらの結果から、サンゴ粘液が周辺海水に放出されることで、周辺海水の細菌生産が増加し、その増加した細菌生産は特定の細菌種によってのみ担われていることが示された。
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