パーキンソン病の進行を抑制する薬物としてのアドレナリンβ3受容体アゴニストの有用性を明らかにする目的で、マウスにおけるMPTP誘発ドパミン神経細胞死に対するβ3受容体アゴニストの影響を検討した。また、保護作用の作用機序を明らかにする目的で、脳内グルタチオン量について検討した。 脳内のβ3受容体の発現分布について検討したところ、β3受容体は脳全体にユビキタスに蛋白質レベルで発現していることが明らかになった。また、免疫染色によりその発現細胞を検討したところ、β3受容体はアストロサイトマーカーであるS100タンパク質と共局在していることが確認された。また、β3受容体の発現は、マウス初代培養アストロサイトにおいても確認された。マウスへのβ3受容体アゴニストの投与により、ドパミン神経細胞の細胞体が存在している中脳腹側部でのグルタチオン量が増加した。またその増加は、大脳皮質や海馬においてもみられた。 β3受容体の投与回数の検討より、脳内グルタチオン量の増加は単回投与でもみられたが、単回投与では十分な保護作用が観察されなかった。一方、1日1回8日間の反復投与により著明なMPTP誘発ドパミン神経細胞死抑制作用が観察されたが、脳内グルタチオン量の増加は、単回投与と同程度であった。これらのことから、アストロサイトで増加したグルタチオンが神経細胞に供給されるのには、一定の時間が必要であることが示唆された。このことは、神経細胞とアストロサイトの混合培養系における神経保護作用も同様であった。 上記の結果から、パーキンソン病におけるドパミン神経細胞死に対してβ3受容体アゴニストが保護作用を示すことが示唆された。また、β3受容体アゴニストによるグルタチオン量の増加から、β3受容体アゴニストが他の神経変性疾患の治療に有用である可能性も考えられた。
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