研究実績の概要 |
前年度までのデータをH27年度に詳細に分析した結果、初期立位位置を一定にして先行研究(Nashner, 1976)と同程度の刺激強度で突然床を傾斜させた場合、傾斜後の筋活動は、体幹・大腿・下腿のいずれにおいても、第2試行で少し小さくなるものの、4試行までに適応的に減少する、という現象は認められなかった。そこで、これまで使用していた傾斜は刺激強度が小さく、下腿三頭筋伸張反射を抑制させ、かつ全身へその抑制が波及するほどの刺激ではなかった、という仮説を立て、強い傾斜刺激による全身的な抑制効果の有無を明らかにすることを目的に実験を行った。特に速度の影響について詳細に検討した。 健常若年成人9名に対し、聴覚予告信号(S1)の2秒後に下腿三頭筋が伸張される2つの一過性床外乱刺激(S2):1)水平後方床移動、2)前方が上昇する床傾斜、のいずれかを負荷した。S2は、後方床移動刺激から予測できない試行タイミングで床傾斜刺激に切り替わった。床の傾斜角度は、被験者が立位を保持できる最大角度とし、傾斜速度は毎秒8cm, 15cm, 20cm, 25cm, 30cmの5条件を設定した。 毎秒8cm条件を除き、傾斜の第1試行では、ほとんどの被験者が外乱に対して立位を保持できないが、第2、3試行以降は保持可能となった。毎秒30cm条件では、傾斜試行に伴う筋活動の減少が、下腿三頭筋とともに体幹・大腿筋でも明確に認められた。その他の条件では、試行によるばらつきが大きかった。 本研究で用いる傾斜刺激において、下腿三頭筋伸張反射は姿勢制御にとって有効ではなく、抑制するべき反応である。転倒を誘発するような大きな刺激が加わったことで、強く抑制が必要となり、その効果が全身に波及した結果、体幹・大腿の筋活動も小さくなったものと考えられた。また、高齢者でも同様の現象が認められた。
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