研究実績の概要 |
本年度は、昨年度に引き続いて、企業の研究開発投資行動を大幅に簡略化し、財の生産過程における経験の蓄積が技術進歩や生産性の向上をもたらす最も単純化された世代重複型内生経済成長モデルを用いて、「確定給付型」の賦課方式年金から「確定拠出型」の賦課方式年金への移行が「高齢化と経済成長の関係」に及ぼす影響について分析を行った。その際、昨年度とは異なり、公債発行により年金給付がファイナンスされる状況を明示的に考慮し、社会保障政策が「高齢化と財政の維持可能性の関係」に及ぼす影響についても同時に分析を行った。その結果、「老齢人口比率」が高くかつ「確定給付型」のもとですでに寛大な年金給付を行っていた経済ほど、こうした公的年金改革を行うことにより、「人口の高齢化が財政の維持可能性や経済成長に及ぼす負の影響」を緩和できる余地が大きいことを示した。また構築した理論モデルに基づき簡単なシミュレーション分析を行い、こうした年金改革が財政の維持可能性、経済成長率、各世代の経済厚生に及ぼす影響について定量的に検証した。その結果年金改革に伴う世代間利害対立の問題は高齢化が進展すればするほど深刻化する可能性があることが示された。私の知る限り「確定給付型」から「確定拠出型」への賦課方式年金の移行が経済成長に及ぼす影響について考察した理論研究は限られている。とくに、公債発行により年金給付がファイナンスされる状況を明示的に考慮した上で、社会保障政策が財政の維持可能性に及ぼす影響を分析した理論研究は殆ど存在しない。その意味で本研究の理論的貢献は大きいと考えられる。これらの理論的成果はDiscussion Paper, "Population Aging, Fiscal Sustainability and PAYG Pension Reform" としてまとめられた。
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