研究課題/領域番号 |
25870955
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
中沢 寛光 関西学院大学, 理工学部, 実験助手 (70411775)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 皮膚角層 / バリア機能 / 細胞間脂質 / X線回折 |
研究実績の概要 |
人体を覆う皮膚の最も重要な役割は、外界からの異物の侵入や体内の物質が流失するのを防ぐいわゆるバリア機能を発揮することであり、それには皮膚の最外層に位置する“角層”の領域が重要な役割を担う。この角層は主にケラチンを主成分とする“角質細胞”と、その周りの“細胞間脂質”で構成され、それらが高秩序化されることで、高いバリア性能が発揮される。従って、この角層の構造を詳しく解析することで、皮膚バリア機能のメカニズムが明らかとなり、またより浸透しやすい経皮吸収薬の開発研究に応用できると考えられる。本研究では、この角層に対して様々な外部刺激を加えた際に生じる構造変化を詳細に解析することで、角層の構造特性を明らかにすることを目的としている。 美容外科手術において切除された皮膚片より角層を抽出し、それを用いて様々な外部刺激下にある角層の構造解析をSPring-8(ビームライン40B2、03XU)で実施した。まず、生体の基本物質である水の浸透挙動を解析するため、角層に温度変化を加えた際の角層の構造変化と、角層内における水の拡散挙動変化を同時に解析した。当実験から、前年度確認された両者の相関関係の再現性と、より高時間分解能な結果が得られ、水だけでなく様々な物質の浸透に対する細胞間脂質の寄与の定性的な分析が可能となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はH25において作製された斜入射セルの実用性を確認すべく、様々な実験を展開した。まずH25において確認された水の浸透挙動と細胞間脂質の相関解析実験については、セルの構造や材質、水の透過性の検出器の仕様を変更することで、より高精度、高時間分解能なデータを取得することができた。このような水と細胞間脂質の構造に関する動的な解析研究の成果は前例がなく、業界に対してインパクトのある大変貴重な成果が得られたと考えている。これらの成果については、現在学術論文を執筆中である。また今回提出する自身の学位論文の主要研究成果にもすることができた。 また当初計画していたエステル油剤などの様々な物質と角層の相互作用の研究に関しても、本年度に多くのデータを取得することができた。現在のところは、まだデータの解析段階にあるが、温度による浸透挙動の違いなどをおおよそ明らかにすることが出来たと考えている。当研究については、国内大手化粧品企業からの共同研究提案の内容とも合致しており、今後それらの企業とコラボレーションした広い研究展開も期待されるところである。 H26年度の最後に実施した角層に対する力学的刺激の影響確認研究については、まだまだ課題の残る結果となった。現在の装置環境で当実験を実施したところ、力学刺激印加時に角層がわずかにたわみ、それによって試料と検出器の位置関係(カメラ長)がわずかに変化することがわかった。これは当初から想定されたことであったが、力学的刺激による角層の構造変化が、たわみによるカメラ長の変化による変化以下であることが推測され、現状では解析が難しいことが示唆されている。力学的刺激を超音波に変更するなど、当研究については今後修正が必要であると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
H27年度については、角層に対する溶液の浸透性評価の再実験を実施する。これらの実験に要する放射光施設での実験時間は、SPring-8に課題を申請し、すでに採択通知があり確保されている(SPring-8、40B2:2015A1406、03XU:2015A7203)。すでにいくつかの種類のエステル油剤で浸透実験を実施し、それらの種類による浸透特性の違いなどを明らかにしたが、これらの結果について、再現性や個体による影響の違いについて詳細に確認する。また現在、修正段階にある水と角層の構造解析の結果に関する論文について、早期に完成させ投稿する。これらの成果が主要内容となっている学位論文については、すでに関係者の確認作業が終了しており、次月申請しH27年度中に全ての審査が終了する予定である。 角層に対する力学的刺激の影響の評価実験については、その方向性について大幅に修正する必要があることが判った。現状のシステムのように、シート状の角層を両サイドから引っ張って角層の構造変化を確認する方法では、試料のたわみによる試料位置の微妙な変化が生じてしまい、それによる回折ピークのシフトが出てしまう。実験結果から、力学的刺激を加えた際にピークシフトが生じ、実験は成功裏に終わったと思われたが、その後の解析により、数100ミクロンのたわみによるピークシフトと強く推測される結果となった。想定以上にSPring-8のシステムの側方分解能が高く、それらを厳密にコントロールした上で、実施する必要がある実験であることがわかった。上記の計画が全て終了した時点で、力学刺激に関する実験の展開について検討していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
H26年度に水やその他溶液の角層内での浸透挙動を解析したが、角層構造の変化が複雑であり、新たな構造変化に対する解析等に時間を要し、またその為の再実験など十分に行ったため、研究の進捗に遅れが生じた。そこで、角層に対する外部刺激の効果等の発展研究については、次年度に実施することとしたため、それらの理由により未使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
上記のような理由により、経皮吸収に対する外部刺激の効果の研究を初めとするその他の発展研究及びその成果報告については、次年度に広く展開することとし、未使用額はその経費に充てることとしたい。
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