研究課題/領域番号 |
25870959
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
遠藤 知子 関西学院大学, 人間福祉学部, 助教 (00609951)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 福祉国家 / 社会権 / 社会政策 / 市民社会 |
研究概要 |
本研究の課題は、政府と市民社会の特徴について規範理論の観点から分析した上で、市民社会組織が重要な福祉サービス提供主体として制度的に推進されることが、社会権保証においてどのような課題を生み出すのかということを明らかにすることであった。研究計画1年目である平成25年度は、社会権に関する政治理論研究の文献調査を行うとともに、イギリスの福祉提供におけるボランタリー・セクター政策に関する調査を行った。 福祉サービス提供を市民社会組織に移譲していく政策動向の実践的事例として、イギリス・キャメロン政権による公共サービスの民間開放政策(Open Public Services)について現地調査を行った。2013年11月には、イギリスの中央政府、地方自治体、ボランタリーセクター関係者等の聞き取り調査に参加した。この結果、2014年3月15日に、日本NPO学会第16回年次大会において、「イギリス公共サービス改革における非営利セクター政策」と題する報告を行った。また、3月27日には、韓国慶熙大学、および梨花女子大学の公共政策セミナーにおいて、「Opening up public services in the UK: Recent trends for social enterprises」と題する報告を行った。これらの成果は、「イギリスにおける公共調達と社会的企業」(川村暁雄、川本健太郎、柴田学編『これからの社会的企業―カリスマ像からの脱却とパートナーシップの明確化―』ミネルヴァ書房、2014年)として出版予定である。 こうした実践的動向を踏まえつつ、理論研究においては、市民の社会権に対する制度的な義務負担者としての福祉国家をめぐる議論を整理した。その上で、平成26年度は市民社会組織の自発性と、社会権に対する公的義務負担の関係について検討する論文を、国際学会で報告する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では、社会権および市民社会組織の特徴を規範理論の観点から明らかにすることが課題であり、平成26年度から福祉提供における市民社会組織を制度的に推進する実践的事例として、主にイギリスの福祉サービス改革に関する現地調査を進める計画であった。しかし、平成25年度からイギリスの政策に関する調査を開始し、同時に理論研究を進めている状況である。よって、理論研究が当初の計画に対してやや遅れをとっている分、政策動向に関する調査を当初の計画よりも早く進めることができた。この結果、現実の政策的課題を理論研究に反映させることができ、結果的に理論研究の充実に役立つと考えている。具体的には、市民社会組織が福祉提供者として積極的に推進される根拠のひとつとなっている市民社会組織の自発性による特徴と、社会権に対する公的義務負担の規範的要求との間の齟齬を特定しやすくなったと考える。平成26年度は、理論研究を充実させるとともに、引き続き、福祉サービス提供において市民社会組織を推進する政策について調査を進めていく。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度も、市民社会組織の特徴と社会権に対する公的義務の関係について明らかにする理論研究を継続していく。具体的には、市民社会組織の自発性にもとづく福祉提供者としての利点と、社会権に対する公的義務の緊張関係をさらに明確にした上で、それらの両立の可能性について検討する。この際、研究代表者の平成25年度の研究実績と併せて報告、論文化を進めていき、平成26年5月に開催される韓国社会政策学会および、7月に開催されるInternational Conference for Social Economy in Asiaで報告を予定している。 その一方で、実際の政策レベルでは、イギリスや日本における現実の政策的議論を踏まえつつ、社会権保障および権利に対する公的義務という立場から、福祉提供の主体として市民社会や地域を制度的に推進する政策について批判的に検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初計画していた国際学会に参加することができなかったため、一回分の海外旅費(ヨーロッパ往復と滞在費)を使用しなかったことにより、次年度使用額が生じた。 〈消耗品費〉平成26年度は、主に図書にかかる費用として、消耗品費を200千円計上する。〈旅費〉国内外で学会報告を行う際にかかる旅費(交通費と宿泊費)として、平成26年度は国内旅費に50千円、外国旅費に350千円を計上する。また、イギリスにおけるボランタリー・セクター、政策関係者の聞き取り調査を行うため、300千円計上する。〈謝金〉ボランタリー・セクター政策に関する聞き取り調査の謝金として「専門的知識の提供」を100千円計上する。
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