AEDは,公共施設や商用施設などにも普及し,一般市民が身近に使用できる環境が整ってきたといえる.しかし,一般市民は医療機器に精通しているわけではないため,意図せぬ使い方をする可能性がある.本研究では,水道水や生理的食塩水,海水を模擬した液体を用いてパッド間が濡れている場合のエネルギー損失について調べた.その結果,いずれの液体についてもパッド間に液体で経路が形成されない限り,エネルギーの損失はほとんど起きないことがわかった.しかし,電気伝導度の高い海水のような液体においては,経路が形成されると大きくエネルギーが低下し,人体よりも液体側に電流が流れてしまう可能性があることがわかった.ただし,胸壁表面が約48%程度その液体で占められる状況にならない限り経路が形成されることはなく,胸壁表面を拭き取って経路を断ち切れば大きな影響はないことがわかった.低温環境下にAEDを置いた場合については,AED本体への影響は確認できなかったが,電極パッドが使用できなくなる場合があることがわかった.具体的には,フィルムタイプのシートに電極材料が取り付けられているパッドの場合が問題であり,-6℃~-9℃付近でパッドを剥がす際に電極シート自体が破れて使用できなくなった.高温環境については60℃程度までは特に大きな問題は生じなかった.貼り薬等が貼られた状態でパッドを貼ってしまった場合を想定し,パッドの接触面積を減少させた場合の温度上昇についても調べたが,AEDの出力は10ms程度で終わってしまうせいか,パッド周囲の温度が大きく上昇することはなかった.ただし,接触面積が極端に小さくなると実験の過程で火花が飛ぶ場合があったため,やはり貼り薬等がある場合は剥がして使用するように指導しなければならないことが確認できた.
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