研究課題/領域番号 |
25870979
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 広島修道大学 |
研究代表者 |
青竹 美佳 広島修道大学, 法学部, 准教授 (50380142)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 遺留分 / 相続 / 財団 / ドイツ相続法 / ドイツ遺留分 / ドイツ民法2325条 / 民法1030条 / 遺留分の対象となる財産 |
研究概要 |
無縁社会における相続制度のあり方として、疎遠な関係にある家族に財産を必ず承継させるのではなく、被相続人自らが有益と信じる事業のために財産を利用する可能性を追求した。具体的には、家族に最低限保障される相続分である遺留分の対象となる生前贈与の範囲についての民法1030条を制限的に解釈することにより、被相続人の意思および事業の実現を、家族の遺留分に優先させる解釈論上の可能性を提示した。 比較検討の対象として、被相続人が設立した財団と遺留分との関係についてのドイツの遺留分権論を検討した。そこからは、高齢化など家族をめぐる状況の変化により遺留分制度の機能が見えにくくなってきているのに対して、被相続人が自らの財産により財団を設立して事業を行う意思を持ってた場合には、できるだけ財団を保護するべきとの考えが強くなっていることが分かった。しかし、解釈論上は、遺留分の対象となる贈与と財団設立行為の類似性から、財団を遺留分に必ず優先させる結論を導くのが難しい。 そこで、民法1030条において、財団を遺留分に必ず優先させるという解釈論を放棄するとともに、ドイツ法に比べて日本の民法では主観的要件が設けられていることに目をつけ、遺留分が果たしている具体的機能を考慮しながら財団の設立を保護する解釈論を提示した。 遺留分の機能が分かりにくくなっている点や遺留分の弱化の方向性については近年学説において指摘され、判例も遺留分の弱化につながる判断を示しているが、被相続人の設立した財団と遺留分との関係において遺留分規定の具体的な解釈論を提示した点に本研究の意義がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、無縁社会における相続法制度の再構築である。平成25年度は、無縁社会において、被相続人の設立した財団と家族の遺留分との関係をどのように捉えるべきかを検討し、民法1030条について、財団の設立を遺留分が機能していない疎遠な家族の遺留分に優先させる解釈論を提示した。研究の成果を論文として公表し、成果を学会にて発表した。
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今後の研究の推進方策 |
今後も引き続き、無縁社会にふさわしい相続法理論の構築を試みる。平成25年度に研究の対象とした遺留分制度における解釈論上の問題に続いて、今後は相続廃除制度に焦点を当てる。無縁社会に向かいつつある現代では、相続廃除の基準は、被廃除者の責められるべき事由から客観的な家族関係の破綻に移行していくのではないかという推論を実証する。 研究方法として、第一に、判例・学説において廃除の基準とされてきた「相続的協同関係の破壊」という概念を検証する。この基準は、被廃除者を制裁する意義をもっているか、被廃除者の有責性を前提としているかということを検討し、被廃除者の有責性に左右されない客観的な破綻を廃除事由に含めることが可能か否かを検討する。 第二に、ドイツの相続廃除の制度(正確には遺留分はく奪制度)について構築されてきた廃除の理論を検討する。ドイツのはく奪制度は元来相続人の有責性を前提としており、柔軟な解釈を許さず、客観的な破綻に拡げた解釈は難しい。しかし、2010年の相続法改正は、有責主義をわずかに後退させ、被相続人の意思を重視した規定を置いている。また、現代の多様化した家族関係において、何十年も家族らしい交流なくして死者の家族が遺産の取り分を主張することがあるが、これは妥当ではないと指摘されている。 新しい基準を構築するドイツ法学の試みを参考にしながら、日本の廃除制度における基準も、現代の家族の状況にかんがみて、相続人の責められるべき行為から、客観的な家族関係の破綻に重点が移ってきているかどうかを検証する。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究のための旅費は、安価な航空券を入手することができたため残額が生じた。また物品費を使用しなかったのは、平成25年度は家庭裁判月報や民商法雑誌などのバックナンバーの寄贈を大量に受けたために図書の購入を差し控えたことによる。 今後も学会参加や資料収集に必要な旅費を使用するとともに、研究に必要な図書や機器を選定することにより物品費を使用する。
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