研究課題/領域番号 |
25870980
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 広島修道大学 |
研究代表者 |
笠島 洋一 広島修道大学, 経済科学部, 准教授 (30583166)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ゲーム理論 / 配分メカニズム / 公平性 / 効率性 / 耐戦略性 |
研究概要 |
本研究課題においては「確率的配分問題」の分析をひとつの大きなテーマに掲げているが、2013年度においては「公共財の確率的な選択問題」について一定の成果を上げることができた。この問題は、人々が公共財の選択に対し様々な選好を有しているときに、(いくつかの公共財の候補の中で)どの公共財を選択するべきかを確率的に決定する問題である。例えば、ある地域において「図書館」、「美術館」、「科学館」のいずれかの公共財を供給できるとした場合に、それらの公共財に対する地域住民の選好を反映して、どの公共財を選択するべきか(どの公共財を選択することが公平であるか)を分析する。しかし、例えば住民の半分が図書館を望み、残りの半分が美術館を望んだ場合、どちらの公共財を(確定的に)選択するべきか判断をつけることができない。そこで確率的な選択を考慮することで「事前的な」意味において望ましい選択を行なう方法を模索した。 この問題において阿武秀和氏との共同研究で選択ルール(問題が与えられたときに、どのような選択を行なうべきかを与える関数)の性質として、「効率性」(経済学におけるパレート効率性に対応するもの)、「順序性」(人々の選好の順序のみが選択に影響することを要求するもの)、「耐戦略性」(嘘の選好を表明することが得にならないことを要求するもの)を考察し、それらの性質の含意を分析した。特に耐戦略性を維持しつつ、効率性と順序性を可能な限り弱めたときの、選択ルールの特徴付けを行なった。その研究成果は、阿武氏との共著で “Strategy-proofness and the random dictatorship rules” とのタイトルで論文を執筆している。また、この論文は、2014年6月にアメリカのボストンカレッジ大学で開催される “12th Meeting of the Society for Social Choice and Welfare”(社会的選択論と厚生経済学の世界大会)で発表することが確定している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「非分割財の確率的配分問題」における「効率性」、「単調性」、「整合性」、「耐戦略性」といった性質を満たすメカニズムの設計可能性については、まだまだ明らかになっていない部分は多いものの、いくつかの重要な文献調査を進めることができ、また本研究課題と密接な関係にある研究が多く行われている早稲田大学への研究訪問を通じて、この問題に対する理解を大いに深めることができた。特に、非分割財の確率的配分問題とは同じ問題ではないものの、同じように確率的な制度設計を考察している「公共財の確率的な選択問題」に関して一定の成果を上げることができたことは大きい。確率的な選択を考える場合、資源配分メカニズムの性質を分析する際は、通常のような確定的な選択を考察する場合とは異なる(数学的な)テクニックを用いる必要がある。公共財の確率的な選択問題において、効率性と耐戦略性といった資源配分メカニズムの性質を深く理解できたことは、それらのテクニックに関して理解が進んできたことの表れであると考えられる。そこから得られた知見が、非分割財の確率的配分問題における効率性や耐戦略性の含意を分析する上で大いに役に立つことは間違いない。 また非分割財の確率的配分問題における単調性と整合性の分析については、「分離性」というメカニズムの性質との関係性を中心に分析を進めることができている。 全体を通じて、今後の中心的課題の研究及びその周辺の問題の分析に対する基礎となる部分を少しずつ形成することができていると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後も引き続き、必要に応じて文献調査を行ない、また他大学への研究訪問等も行ない研究課題に対する理解を深めていく。 2014年6月にはアメリカのロチェスター大学において資源配分メカニズムに関するワークショップが開催され、また同じく6月にアメリカのボストンカレッジ大学において “12th Meeting of the Society for Social Choice and Welfare” という社会的選択論と厚生経済学の世界大会が開催される。いずれも、本研究課題に密接に関係する研究を行なっている研究者が世界中から集まり、多くの研究発表が行われる。これらの研究集会に参加し、多くの研究者との交流を図ることによって研究のヒントを得たり、最新の研究に触れられたりできるように努力していく。12th Meeting of the Society for Social Choice and Welfare では阿武秀和氏との共同研究(Strategy-proofness and the random dictatorship rules)を発表することが確定しているので、発表を通じてできる限り多くのコメントをいただけるようにしたい。特に「耐戦略性」については、その性質に関して専門的な知識を有する研究者も多く参加するので、有益なコメントを得ることができる可能性は高い。 その後は、これらの研究集会から得られた知識等を整理し、本研究の主要な課題である非分割財の確率的配分問題に関して分析を行ないたい。また、公共財の確率的な選択問題に関しても、選択ルールの性質として「人口単調性」(人口が増加したときに、以前からいた人々は、選好において全員同じ影響を受けることを要求するもの)や「選好単調性」(何人かの人々が選好を変化させたときに、以前と同じ選好を有している人々は、選好において全員同じ影響を受けることを要求するもの)を考察し、それらの性質の含意の考察を進める。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初から2014年度においては、6月にアメリカのボストンカレッジ大学で開催される “12th Meeting of the Society for Social Choice and Welfare”(社会的選択論と厚生経済学の世界大会)に参加する計画であった。ところが、2013年度の途中で、これに加えて2014年6月に(上述の学会に日程を連続させる形で)アメリカのロチェスター大学において資源配分メカニズムに関するワークショップが開催されることが分かった。どちらの研究集会も、本研究課題と密接に関連のある研究分野の研究発表が行われ、この分野の世界的な権威が集まることが予想された。ロチェスター大学でのワークショップでは、本研究課題の鍵となる「公平性」に関して理解を大いに深めることができる可能性が高いと感じた。また、ボストンカレッジ大学での学会では、研究発表を予定していた。そのため、どちらの研究集会にも参加するための予算を2014年度に確保する必要性が生じた。 主な使用用途としては、2014年6月にアメリカのロチェスター大学において開催される資源配分メカニズムに関するワークショップと、同じく6月にアメリカのボストンカレッジ大学において開催される “12th Meeting of the Society for Social Choice and Welfare” (社会的選択論と厚生経済学の世界大会)に参加するための費用があげられる。また、文献調査、他の研究者との円滑な交流を行なうためのパソコン周辺機器(パソコン本体を含む)の設置を行ない、今後より良い研究報告を行なうために、いくつかのソフトウェア(図の作成や、数式の入力のためのソフトウェアなど)を購入する。さらに、本研究に関連する数学の書籍(グラフ理論やネットワーク理論などに関する専門書も含む)、経済学の書籍(特に洋書)の購入等も行なう。
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