研究課題/領域番号 |
25870987
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 松山大学 |
研究代表者 |
田邊 知孝 松山大学, 薬学部, 講師 (60532786)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 腸炎ビブリオ / 小分子RNA / 転写後調節 |
研究概要 |
細菌の外界環境変化の感知と細胞応答は転写因子による遺伝子発現制御機構が中心であると考えられていた。ところが最近、小分子RNAとRNAシャペロンであるHfqが細菌の環境適応機構に関わる遺伝子や病原遺伝子の発現調節に重要な役割を担っていることが明らかになり、翻訳段階の制御機構の重要性が注目されている。 本年度は、腸炎ビブリオ鉄獲得系遺伝子のRNAレベルでの発現制御機構について精査した。腸炎ビブリオは鉄制限環境中の水不溶性三価鉄を利用するためにシデロフォア(三価鉄キレート分子)であるvibrioferrin(VF)を産生し、可溶性の三価鉄-VF複合体として必須元素である鉄を吸収している。これまでに、VF生合成に関わるpvsオペロン(pvsOp)は小分子RNA RyhBにより正の発現調節を受けていることがわかっていた。本研究では、RyhBによるVF産生の増大は、Hfqを介したRyhBとpvsOp mRNA 5'-非翻訳領域の結合によりpvsOp mRNAが安定化した結果としておきることを明らかにした。 また、腸炎ビブリオのenterobactin(大腸菌の産生するシデロフォア)利用に関わる外膜受容体PeuAは、弱塩基性下においてRNAレベルで発現誘導されることが判ったため検討した。その結果、鉄制限下且つ弱酸性~中性下では翻訳抑制構造を有する長いpeuA転写物が合成されるためPeuA蛋白質が発現できないこと、一方、enterobactin含有鉄制限下且つ弱塩基性下ではPeuRS(二成分制御系)により翻訳抑制構造を持たない短いpeuA転写物の誘導されるためPeuA蛋白質発現が可能となることが判った。この結果は、二成分制御系を介して標的遺伝子の転写開始位置を変化させることで翻訳のON/OFFを調節するという新規遺伝子発現機構の可能性を示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
・交付申請書に記載した平成25年度研究計画に従い、小分子RNA RyhBによるvibrioferrin生合成遺伝子mRNAの安定化機構を解明した。小分子RNAがシデロフォアの生合成遺伝子の発現を直接制御しているという例は、これが初めてである。 ・腸炎ビブリオ鉄獲得系遺伝子のRNAレベルでの発現制御機構を明らかにしていく過程において、小分子RNAを介さない翻訳制御機構により発現調節される鉄獲得系遺伝子peuAを見出した。本研究で明らかにしたPeuA翻訳制御機構は、二成分制御系PeuRSを介してpeuA遺伝子の転写開始位置を変化させることで翻訳のON/OFFを調節するという新規遺伝子発現機構の可能性がある。
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今後の研究の推進方策 |
1)小分子RNA遺伝子欠失株の構築と解析 現在のところ、RNAデータベースRfam上には腸炎ビブリオの小分子RNAがRyhBを含めいくつか登録されている。RyhB以外の小分子RNAが腸炎ビブリオの環境適応や病原性発揮にどのような影響を与えているかを調べるため、各種小分子RNAの遺伝子欠失株の構築し、表現型解析や細胞障害性試験を行う。 2)Hfqが関与する環境ストレス応答 種々の細菌においてHfqは小分子RNAの機能発揮に重大な役割を果たすことが知られている。腸炎ビブリオHfqは酸化ストレス応答に関与する(Su et al., J. Gen. Appl. Microbiol., 56:181-186, 2010)という報告があるが、それ以外の環境応答への関与については不明である。そこで、腸炎ビブリオhfq遺伝子欠失株を用いて生理試験やバイオフィルム形成能を調べ、野生株と比較検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初計画では、腸炎ビブリオenterobactin受容体遺伝子peuAのRNAレベルにおける発現調節機構の解析については予定していなかったが、本菌におけるRNAレベルでの発現調節機構の全体像を理解する上で重要と判断したため研究を行った。そのため、平成25年度に予定していたRyhB標的遺伝子の解析の一部が行えず、次年度使用額が生じた。また、研究室内の配置転換等により購入予定機器の設置計画が立てられなかったため、次年度使用額が生じた。 上述の理由のため、平成25年度の研究費に未使用額が生じたが、研究計画に大きな変更はなく、前年度研究費も含めて、当初の予定通りの使用計画を進めていく予定である。
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