研究課題
細菌の外界環境変化の感知と細胞応答は、転写因子による遺伝子発現制御機構が中心であると考えられていた。ところが最近、小分子RNAとRNAシャペロンであるHfqが、病原遺伝子や環境適応機構に関わる遺伝子の発現調節に重要な役割を担っていることが明らかになり、翻訳段階での遺伝子発現制御機構の重要性が注目されている。本年度は、腸炎ビブリオの主要な病原因子であるIII型分泌装置(T3SS)と小分子RNAとの塩基対形成の可能性について精査した。その結果、グルコース存在下で発現誘導される小分子RNA Spot 42とT3SSエフェクターVepAのシャペロンをコードするvp1682 mRNAとの結合の可能性が推測された。RNAゲルシフト解析を行ったところ、実際にSpot 42とvp1682 mRNAはHfqの存在下で結合すること、さらに、in vitro翻訳解析の結果から、Spot 42はVP1682の発現を翻訳段階で抑制することが分かった。また、細胞感染実験の結果からは、spf遺伝子欠失株(Spot 42をコードする遺伝子の欠失株)は親株と比較してより強い細胞障害性を示すことも明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
交付申請書に記載した平成26年度研究計画に従い、腸炎ビブリオ小分子RNAの各種遺伝子欠失株を作製した。作製した欠失株のうち、Spot 42をコードするspf遺伝子の欠失株が野生株と比較して強い細胞毒性を示すという新規知見を見出すことができた。この分子機構については現在解析中である。また、平成25年度の研究成果については、平成26年度に論文発表をすることができた。
平成26年度に作製した腸炎ビブリオ小分子RNAの各種遺伝子欠失株を用いて、表現型解析、各種生理試験、細胞毒性試験等を実行する。小分子RNA欠失株で表現型の変化が認められた場合、小分子RNAの標的遺伝子をin silico解析で推測し、RT-qPCRによる標的mRNAの量的解析や、RNAゲルシフト法による小分子RNAと標的RNAとの結合性を調べる。
平成26年度の研究費は当初の予定通り使用したが、ごく少額の余りが発生した。
研究計画に大きな変更はなく、当初の予定通り、分子生物学研究用試薬の購入や論文投稿のための費用に使用していく予定である。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 1件)
PLoS ONE
巻: 9 ページ: e105749
10.1371/journal.pone.0105749