本研究の目的は,杖など身体を支えるための道具を利用したバランス能力向上につながる新たな方策について検討することである.本年度は,平成25年度に行った基礎的な研究の日常生活における応用策について検討を加えた.その結果,以下の3点を明らかにした.
1.立位時において,杖に身体を支えない程度の力で軽く握るだけでも,身体の動揺(足圧中心点の平均移動速度,前後および左右方向の最大レンジ)が小さくなることを認めた. 2.この作用は杖に触れている時だけでなく,その後,杖に触れなくなった場合でも残存する(身体動揺は杖に触れる前よりも触れた直後で減少する)ことも明らかにした.しかし,杖で身体を支えるように使用した場合,これらの作用は認められなかった. 3.また,静的な姿勢保持時のみでなく,動的な姿勢保持時においても認められ,姿勢保持のみでなく,動作へも応用できる可能性を示した. 4.身体を支えるための道具だけでなく,普段身に纏っている衣服への応用を試みるため,姿勢保持に及ぼす布の接触への影響を調べた.その結果,上肢姿勢保持における生理的振戦は,前腕部への布の接触があることで減少することを明らかにした.
|