研究概要 |
本研究では、フルオラス(パーフルオロアルキル基同士がもつ特異的親和性)かつノンコバレントな相互作用を利用した新しい前処理法の構築を試みている。フルオラスとはパーフルオロアルキル鎖同士がもつ特異な親和性のことを指し、従来まで我々は、このフルオラス相互作用を分析化学的に応用すべく、測定対象分子をパーフルオロアルキル化し、その誘導体をパーフルオロアルキルLCカラムによって選択的に分析するといった手法(フルオラス誘導体化法)の開発を行っていた。本手法は、生体関連物質の選択的な測定に極めて有用ではあったが、「誘導体化を要する」という操作上の欠点をも有していた。そこで本研究では,誘導体化の操作を要さずとも,フルオラスの性質を十分に活かし得る選択的分析法を開発すべく,イオンペア抽出などノンコバレントな相互作用の概念をフルオラス抽出法へ採り入れることとした。本年度は、市販のフルオラス試薬である4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,11,11,11-heptadecafloroundecylamine(HFUA)をイオンペア剤として利用し、リン酸基含有化合物(ヌクレオチド類)をモデルに、それらをフルオラス溶媒中へと抽出しうる手法を開発した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要に記載のとおり、本研究では、まずは市販のフルオラス試薬(HFUA)をイオンペアとして用い、ヌクレオチド類(AMP, GMP, UMP, ADP, GDP, UDP, ATP, GTP及びUTP)のフルオラス溶媒抽出を試みた。今年度は、本条件の基礎的検討(フルオラス溶媒、イオンペア濃度、緩衝液濃度及びpH)を行った。その結果、フルオラス溶媒としてpentadecafluorotriethylamine及び1H,1H,2H,2H-tridecafluoro-1-n-octanolの混合液を、イオンペア濃度として100 mMを用い、酢酸塩緩衝液(pH 4.0)の条件下、対象としたヌクレオチド類を良好に抽出することが可能であった。また、フルオラスイオンペア剤(HFUA)を用いなかった場合、及び非フルオラスなオクチルアミンをイオンペア剤として用いた場合、ヌクレオチド類をフルオラス溶媒中に抽出することはできなかったことから、本法が「フルオラス相互作用を介した選択的抽出法」として有用であることが示唆された。しかしながら、ジリン酸類及びトリリン酸類と比較して、モノリン酸類の回収率に若干の問題があった。これは、使用しているHFUA試薬(1級アミン)のイオンペア剤としての効果が薄い、あるいは、モノリン酸類及びHFUAのイオン会合体とフルオラス溶媒との相溶性が悪い、などが原因として考えられた。
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