Carnitine palmitoyltransferase Ⅱ(CPTⅡ)は、長鎖脂肪酸のβ酸化に関与するミトコンドリア内膜にある酵素である。常染色体劣性遺伝形式をとり先天性横紋筋融解症をきたすCPTⅡ欠損症は、激しい運動、重症感染症などが誘因となり繰り返し発症する。本欠損症は、致死的な転帰ともなる新生児・幼児型と、横紋筋融解症から急性および慢性腎不全へと進展する成人型に分けられる。横紋筋融解をきたす遺伝性疾患として、β酸化異常症の中では、CPT II欠損症の頻度が最も高い。 患者由来の皮膚線維芽細胞からiPS細胞を樹立した。未分化マーカーの発現、三胚葉への分化能を確認した。この患者由来のiPS細胞は、患者の遺伝子変異を保因していた。MyoDを遺伝子導入して、骨格筋へ分化誘導した。マイクロアレイ、電顕およびリアルタイムPCRにて、成熟した骨格筋に分化していることを確認した。38度の熱刺激を加え、培養液をタンデム質量分析で解析した。健常者と比較して、CPTⅡ欠損症に特徴的なC16が増加しており、治療薬として期待されているベザフィブラートにて代謝が改善することが分かった。これらの結果は、先天性代謝疾患において、ヒトiPS細胞は有用であることを示している。 iPS筋細胞の実験が、誘発試験と同様の効果が得られたものと考えられる。 この研究により、病態をin vitroにおいて再現する疾患モデルを構築することができ、iPS細胞の特徴を活用できる。CPTⅡ欠損症の発症および慢性腎臓病(CKD)の原因となるスタチンなどによる薬剤誘発性の横紋筋融解症の病態解明にも発展可能である。
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