研究課題
若手研究(B)
励起状態のキラリティを取り扱う円偏光蛍光(CPL)測定は、出現当初1960年代は、CPL試料の応用範囲が限られており、特定の基礎研究のみに限定されていたが、近年、CPL物質が、画像表記ディスプレイの偏光光源をはじめとし、記憶材料、セキュリティペイントなど高度な光情報ツールとして認識され、デバイス開発の機運が高まるとともに、CPL測定法の有用性が再認識されつつある。しかし、有機化合物由来の円偏光蛍光物質は、実用化までには下記に示すハードルが残されており、いまだ汎用展開には至っていない。 第一にCPL物質をデバイスとして機能発現させるには、固体薄膜化・分子の配向制御が重要であり、そのため光学的異方性存在下での物性評価が可能な技術・解析法が必須である。CPL分光法は、電子励起状態における分子のキラリティに関する情報を与えてくれる唯一の測定法であるが、 光学異方性試料では直線蛍光偏光(LPL)と装置の非理想性とのカップリング効果の影響で、真のCPLシグナルが得ることは困難であった。つまり既存のCPL測定は、光学的等方試料に限定されている。結果、CPL測定はある特殊な場合を除いて、光学的異方性を示す試料のCPL非対称性の精密計測は成功例がなく、円偏光蛍光研究は停滞してきた。したがって、CPL材料の開発には、真のCPLシグナル解析法の考案が急務であり、その重要性は明らかである。最近、研究代表者は、分光計の性能評価に有効な手段であるStokes-Mueller Matrix 法を用い、光学的異方性を示す試料に対するCPLシグナル解析を考案し、はじめて固体CPL測定を実現した。さらにH25年度では、基底・励起状態のキラリティを同時に測定可能な円二色性兼用円偏光蛍光(CD&CPL)分光計の構築を行いこれに成功した。
2: おおむね順調に進展している
H25年度の計画では、CPLシグナル解析には電子遷移基底状態と励起状態の光学異方性測定が不可欠であるため、CD&CPL同時測定が可能な光学系の分光計を作成することにあった。既に、研究代表者は、Stokes-Mueller行列解析より、サンプル(S)の後方にマウントされているレンズ(L2)とPEMの静的残留複屈折と光学軸、およびアナライザーの消光比と光学軸の精度がアーティファクトシグナルに大きく関与することが、明らかになったため、回折格子、ディポーラライザー、ミラー、レンズ、PEM、アナライザー、検出器、各々を厳選し分光計を構築した。本開発装置は、10-3OD以下の光学素子を導入し、各々光学素子の高精度な光学軸調整を行い、光学素子の非理想性を出来るだけ回避し、カップリング効果由来のアーティファクトシグナルの最小化を図っている。
円偏光蛍光材料の問題点として、高価な光学活性高純度原料、高輝度と高円偏光度の両立が難しいことが上げられる。そこで光学不活性なフルオロフォア(fluorophore)からなるキラルな自己会合凝集体による高特性の円偏光性発光材料の創製を行う。次年度では、分子自体はアキラルだが、ある条件下で自己会合凝集体を形成し、その超分子構造がキラリティを有するシアニン色素をモデル化合物とし、凝集体のキラリティの制御を行うことで、高い量子効率、円偏光度をもつ円偏光蛍光材料の開発を目指す。予備的な結果から、これらキラル円偏光材料候補色素のキラルな自己会合凝集体は、高い蛍光量子収率、高い円二色性(>0.05)を示し、サーモクロミズムCPL特性によるキラルスイッチングが可能になり、円偏光発光デバイスとして有望であることがわかった。すでに考案・構築した異方性混在下における円偏光蛍光解析法・CPL分光計を用いて、超分子会合状態における真のCPLスペクトル計測に初めて取り組む。これにより、分子会合状態におけるCPL非対称性および光学物性評価・キラルスイッチング機構を明らかにし、円偏光強度の増強を検討する。条件検討により、高輝度が達成できない場合は、Langmuir-Blodgett膜形成法による分子配向制御を行い、方向選択的に蛍光を発する指向性の高い単分子薄膜を作成、擬似的に発光強度を上げる方法で改善を図る。
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