研究課題
若手研究(B)
高齢化社会を迎え、認知症患者の増加が大きな問題である。一方で根治的治療法は確立しておらず、患者のADL(日常生活動作)を低下させない新しい認知症治療薬が求められている。その中で、ADLを低下させずに認知症の行動・心理症状(BPSD)を改善する漢方方剤抑肝散が脚光を浴びている。そこで本研究では、抑肝散の神経栄養因子様作用を利用した新たな認知症治療法を確立する目的で、神経保護、再生能をもつ神経栄養因子に着目し、抑肝散の同作用の詳細な薬理作用メカニズムを解明することを目的に研究を遂行している。初年度である当該年度は、培養細胞(PC12細胞)における神経突起伸長効果や、その情報伝達経路の活性化を神経栄養因子様作用の指標として、1)抑肝散の神経栄養因子様作用の詳細な薬理作用メカニズムの解明、2)抑肝散の神経栄養因子様作用を担う構成生薬(成分)の同定を行った。その結果、1)抑肝散には神経突起伸長効果など神経栄養因子様作用があること。その作用の発現には神経栄養因子の情報伝達経路のうち、Erk経路およびAkt経路の活性化が重要であること。さらにその活性化には神経栄養因子受容体Trkは直接関与しないことが明らかになった。また、2)抑肝散は7つの生薬で構成されているが、特に蒼朮、当帰、柴胡に神経突起伸長作用があることも明らかにした。当該年度の研究結果より、抑肝散の神経栄養因子様作用が認知症改善効果に寄与していることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
神経栄養因子の補充療法に代わる抑肝散による認知症治療法の構築を目的とした本研究のうち、当該年度は抑肝散の神経栄養因子様作用の同定を目的とした研究を計画していた。そのうち、抑肝散の神経栄養因子様作用の検出ならびにその薬理作用機序について主たる情報伝達経路についての解析が終了した。また、抑肝散の薬効を担う構成生薬についても同定できた。次年度は、抑肝散およびその薬効を担う構成生薬による神経栄養因子様作用を動物生体内で解析する予定であり、その実施に速やかに移行できる状態である。
初年度の研究はおおむねに順調に進み、抑肝散の神経栄養因子様作用の検出ならびにその薬理作用機序について主たる情報伝達経路についての解析が終了した。今後は更に詳細な情報伝達経路の関与について検討を進めていく。さらに、抑肝散およびその薬効を担う構成生薬による神経栄養因子様作用を動物生体内で解析する予定である。まず、抑肝散による内因性神経栄養因子への影響を、我々の研究室で構築されている各認知症モデル動物(脳循環障害モデルラット、アミロイドβ注入モデルラットなど)を用いて解析する。抑肝散および候補生薬(成分)をモデル動物に経口投与し、脳内(海馬、大脳皮質など)での内因性神経栄養因子(NGF, BDNFなど)の動態をRT-PCR法ならびにELISA法にて検討する。さらに、内因性神経栄養因子の動態の検討と並行して、組織学的手法(病態モデル動物から経た脳スライス標本の免疫組織染色など)による神経細胞保護効果や、行動薬理学手法(8方向放射状迷路課題や高架式十字迷路課題など)による認知機能やBPSD様症状に対する改善効果を検討する予定である。
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