研究実績の概要 |
神経栄養因子は、神経の分化・再生など神経の機能維持に重要で、さらに認知症やうつ病患者の脳内では、神経栄養因子が減少することから、神経栄養因子を用いた補充療法が試みられているが、現在のところ臨床応用の目途は立っていない。そこで、漢方薬抑肝散ならびにその生薬成分の神経栄養因子様作用を用いた神経栄養因子代替補充療法の開発を目指し研究を遂行した。 初年度には、培養細胞において、1)抑肝散および構成生薬の蒼朮、当帰、柴胡に神経様突起伸長作用などの神経栄養因子様作用があること、2)その作用には、Erk経路およびPI3/Akt経路の活性化が重要であることを明らかにした。 当該年度は、抑肝散による神経栄養因子の生合成促進作用について培養細胞ならびに認知症モデル動物を用いて検討を行った。抑肝散をアルツハイマー病モデルラット(脳虚血処置ならびにアミロイドβ脳内注入ラット)に経口投与し、脳内(海馬、大脳皮質等)の神経栄養因子(NGF, BDNF)量の変化を測定したところ、抑肝散によって脳内BDNF、NGF量が増加することを確認した。そのモデル動物の脳を用いて組織学的に検討したところ、海馬の細胞死が抑制されており、以上の様に、抑肝散の神経栄養因子様作用や神経栄養因子増加作用が、認知症モデル動物の諸症状の改善効果に寄与することが示唆された。さらに、神経栄養因子の生成に寄与することが知られているアストロサイトに抑肝散を処置したところ、BDNF, NGF発現量が増加することも併せて明らかになった。 このように抑肝散には神経栄養因子様作用があり、神経保護や神経新生作用を持つ可能性があるので、経口投与が難しい神経栄養因子の代替としてアルツハイマー病などの神経変性疾患や精神神経疾患の治療薬としても応用ができると期待される。
|