研究実績の概要 |
前年度の研究を踏まえ、それを発展させるかたちでカナダ先住民の自治権の根拠論に関する研究を行った。すなわち、自治権の根拠論は土地権の根拠論と密接に関連しており、土地権の位置づけによって自治権の根拠を何に求めるかも異なる場合があることを踏まえ、主要な学説以外の論者の見解を検討し整理することを試みた。 この作業の遂行は文献を渉猟することはもちろんであるが、それだけでは自治の実態など分からないことも多かった。そこで先住民に関する非常に重要な判例であるHaida Nation v. British Columbia (Minister of Forests), [2004] 3 S.C.R. 511で問題となった現地に訪問し、インタビューを行った。 インタビューを通じて文献には記されていなかったことを知ることができた。例えば、Haida Nationが自らの伝統的領土と主張してきた土地の多くは国立公園とされているが、Haida Nationが一切関わることができないのではなく、エコツーリズムなどはHaidaの人々が行っており、その手法を実際にみることができた。また土地や資源の管理にある程度Haidaの人々が関与するという、一種の「共同管理」とみられる慣行が成立していることが非常に興味深かった。 またメキシコおよびアメリカ合衆国の先住民集団の現地実態調査を行うことを通じて、カナダ先住民との類似点と相違点をみることができた。 もちろん、これらの現地実態調査においては、常に日本の先住民問題を念頭において行った。国によりそして先住民集団によって、その歴史や現状が大きく異なるものの、共通した理論的課題を抱えていることを認識することができた。
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