研究課題/領域番号 |
25871005
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 産業医科大学 |
研究代表者 |
堀江 祐範 産業医科大学, 産業生態科学研究所, 助教 (30514591)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ナノ粒子 / カーボンナノチューブ / アレルギー |
研究概要 |
本年度は、マウスを用いたカーボンナノチューブ(CNT)の気管内投与によるアレルギー増悪効果の評価系を確立した。はじめに、肺毒性が明らかであり、アレルギー増悪効果が期待されるアラムおよび酸化亜鉛(ZnO)ナノ粒子を試料として、実験系の妥当性を検討した。安定に液中分散した咽頭吸引によってC57BL/6Nマウスの肺内に投与した。次に、アレルゲンとして卵白アルブミンを気中噴霧し、途中1週間のインターバルを挟んで、1日おきに4回ずつ、計8回吸入させた。この後、解剖を行い血液および肺組織を採取した。血中のOVA特異的IgEを測定したところ、有意な上昇が認められた。一方で、アラムまたはZnOナノ粒子を投与しなかった(分散媒のみを投与)対照群では、OVA特異的IgEの上昇は認められなかった。このことから、ZnOの吸引によって、卵白OVAに対するアレルギーの増悪効果が認められた。また、肺組織における酸化ストレスマーカーとしてヘムオキシゲナーゼ-1(HO-1)を、炎症マーカーとしてMIP-2遺伝子の発現を検討したところ、いずれも発現の上昇が認められた。次に、ZnOナノ粒子を投与後、同様に1日おきに卵白アルブミンの吸入を行い、吸入1回、2回、4回後にそれぞれ血液を採取し、血中のOVA特異的IgE濃度を測定したところ、いずれの時点でも上昇は認められなかった。これらの結果から、吸入によるアレルギー増悪効果の評価のための実験系として、少なくとも1日おきに1週間のインターバルを挟んで4回ずつ、計8回の吸引によって増悪効果が評価可能であることが確認できた。そこで、次にきわめて安定に液中分散したCNTを調製した。このCNT分散液を、咽頭吸引によってC57BL/6Nマウスの肺内に投与した。この後、上記ZnOナノ粒子と同様の操作を行った。この結果、CNTの投与群でも血中のOVA特異的IgEの上昇が認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、1.マウスを用い抗原を吸入することによるアレルギー増悪効果の評価について実験方法の妥当性を検討すること、2.アレルギー増悪効果を評価するための炎症マーカーおよび酸化ストレスマーカーの解析を行うことを計画した。 1.については、はじめに免疫系の賦活作用が報告されているアラム(水酸化アルミニウム)および呼吸器に対する有害性が報告されているZnOナノ粒子を用いて評価系の検討を行った。この結果、アレルギー増悪効果が適切に評価できる条件を設定することができた。さらに、この実験系が、本研究課題のターゲットであるCNTでも評価可能であることを確認した。 2.についは、肺組織よりサンプリングしたmRNAの発現解析により酸化ストレスマーカーとしてHO-1が、炎症マーカーとしてMIP-2の発現が上昇していることを確認し、これらの遺伝子発現がマーカーとして有効であることを確認した。 以上の経過から、本研究課題は初年度の課題を達成できており、おおむね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の検討で、ナノ粒子によるアレルギー増悪効果の評価系が妥当であることが確認されたこと、HO-1およびMIP-2がそれぞれ酸化ストレス負荷および炎症の有効なマーカーとなり得ることが示されたことから、次年度以降は本実験系によりカーボンナノチューブ(CNT)のアレルギー増悪効果の検討を行う。本年度において、予備的にCNTを調製し検討を行ったが、さらに詳細に物理・化学的なキャラクタリゼーションを行ったCNTサンプルを用いて検討を行う。具体的には、触媒金属(FeまたはNi)の有無や、同一の試料で長さや分散安定性が異なるものを用いて分散液を調製し、検討を行う。当初計画に示したとおり、CNTに含まれる触媒由来の不純物としての金属のアレルギー増悪効果への影響を検討する。また、長さや分散安定性などの物理的性質の寄与についても検討する。これにより、CNTによるアレルギー増悪効果が、すべてのCNTで生じうるのか、または何らかの物理的・化学的性質に依存するのかを明らかにする。加えて、マクロファージ等の培養細胞を用い、酸化ストレス負荷や炎症誘発マーカー、分化マーカーの解析を行い、アレルギー増悪効果のメカニズムを明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年研究課題のうち、ZnOナノ粒子およびアラムを用いた実験系の妥当性の確認および安定なCNT分散液によるアレルギー増悪効果の検討を行い、本年度の研究計画が達成されたところ、さらに次年度の研究計画のうち、同じCNT材料で精製度(金属含有量)の異なるCNT分散液による検討を前倒しで実施するよう計画し、試薬等の物品費として75,829円を確保した。かかる状況において実験を行うべく、精製度の異なる2種類のCNTについて、安定な分散液の調製を試みた。その結果、安定性を保ちつつ十分な濃度を持つCNT分散液の調製の目処はたったものの、当該年度内において、実験のために十分な量の分散液を確保するには至らなかった。 このため、やむを得ず実験を中止し、次年度に再度実験を実施することとした。上記理由により、当初確保していた物品費75,829円を執行せずに次年度に繰り越すこととなった。 本年度の検討から、当該分散液の調製の目処がついた。従って、次年度では当初計画に従って分散液の調製と動物および細胞による実験を実施する。当初の使用目的通り、この際に必要な試薬等の物品代として本年度繰り越しとなった75,829円を全額充当する。
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