研究概要 |
癌幹細胞仮説は癌の治療抵抗性の本質として注目されている。しかし、癌幹細胞の出自はいまだ明らかでなく、その維持機構を解明することは医学的に重要な意義を持っている。グリオブラストーマ(GBM)は癌幹細胞仮説に従うと考えられる悪性度の高い腫瘍である。また、GBMではSTAT3と呼ばれる幹細胞性維持やリプログラミングによるiPS細胞作成を促進するタンパクの活性が高いことが知られている。本研究では、GBM幹細胞からGBMが作られるという一方向性のモデルではなく、「化学療法や免疫反応といった癌細胞へのストレスに応答して通常のGBMから癌幹細胞への転換が生じる」との仮説を立て、特に重要と考えられる幹細胞化促進タンパクSTAT3の制御機構を中心として、仮説の検証・メカニズムの解明を目的とする。 平成25年度はGBM幹細胞化系の確立、GBM幹細胞化メカニズムの解析およびGBM患者標本におけるSTAT3依存性幹細胞化の検討を実施した。3種のGBM培養細胞株(U87MG, U373, T98G)を用いて、細胞分散、低酸素、抗癌剤という3種のストレス下に培養したところ、リプログラミング遺伝子群(OCT4, SOX2, KLF4, c-Myc, NANOG, LIN28)が、それぞれ一定の組み合わせで誘導されることを確認した。また、GBM幹細胞に発現するとの報告がある遺伝子(CD133, SSEA-1, BMX, ALOX5, etc.)の発現も誘導されることが確認された。また、上記ストレスと同時にSTAT3阻害剤の処理を加えると、GBM幹細胞化が抑制されたことから、STAT3活性化が癌幹細胞化にも重要な役割を担っていることが想定された。さらにGBM患者標本における免疫組織学的解析を実施したところ、活性化型(リン酸化型)STAT3がGBM細胞に強く発現していることを確認した。現在までに、パラフィン標本上でGBM幹細胞を染色することに完全には成功しておらず、条件検討を進めている。
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