癌幹細胞仮説は癌の治療抵抗性の本質として注目されているが、癌幹細胞の出自はいまだ明らかでない。グリオブラストーマ(GBM)は癌幹細胞仮説に従うと考えられる悪性度の高い腫瘍である。本研究では、GBM幹細胞からGBMが作られるという一方向性のモデルではなく、「化学療法や免疫反応といった癌細胞へのストレスに応答して通常のGBMから癌幹細胞への転換が生じる」との仮説を立て、特に重要と考えられる幹細胞化促進タンパクSTAT3の制御機構を中心として、仮説を検証した。 ヒトGBM検体において、リン酸化型STAT3 (p-STAT3) の発現が亢進しており、特にストレスの強い壊死巣の周辺で高いことを確認した。また、培養細胞株を用いた実験でも、低酸素刺激もしくは抗癌剤処理によって一過性にSTAT3リン酸化が誘導されることが確認された。 GBM幹細胞化のメカニズムに関して、さらに、体細胞のリプログラミングを誘導することが報告されているmicro RNA(miR)-302/367クラスターの影響を検討した。この結果、mesenchymal phenotypeを呈するGBM培養細胞U87MG細胞において、miR-302/367によりPI3 kinaseおよびSTAT3が不活性化し、各種の幹細胞関連遺伝子発現が低下、proneural typeに近い遺伝子発現形質に転換され、増殖・浸潤能が抑制された。XenograftモデルにおいてもmiR-302/367クラスターを導入したGBMの増殖・転移が抑制された(業績)。 以上の結果から、GBMにおいてストレスに関連してSTAT3が活性化、幹細胞化を促進するが、内在性のmiR-302/367発現を増加することによって、この経路を不活性化できることが明らかとなった。本知見はGBM治療への応用が期待される。
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