今年度は、最終年度ということもあり、成果とりまとめとその発表を行った。ヴィゴツキーの児童学研究のなかにある「心的体験」という概念を使い、家庭と就学前施設、小学校への就学などの移行に焦点を当て、そのプロセスにおける子どもの変化について保育・教育実践を分析した。移行とは単なる環境の変化だけではなく、移行にともない教師や友だちなどとの向き合い方が内的に変化していくことを明らかにした。それは遊びへの姿勢や学びへの姿勢の変化であり、発達の社会的状況として理解されることが指摘された。このようなことから、本研究から導き出された社会文化的な視点をふまえると、「小一プロブレム」などに代表されるように発達の「危機」としてネガティブに評価されがちであるが、発達の契機として理解されるべきものであることが示唆された。 また、就学移行カリキュラムについても分析を行った。特に「読み、書き、算数(3RS)」といった就学準備教育ではなく、遊びを中心とした教育内容を柱としたカリキュラムとしてTool and Mind カリキュラムを手がかりとしたプログラムを構想した。具体的には、就学前のアプローチカリキュラムとして遊びを中心とした「学校ごっこ」プログラムを実施し、小学校への期待や不安などを丁寧に扱った内的な育ちを支えるプログラムを施行し分析した。 以上の成果は、日本保育学会、ヨーロッパ乳幼児教育学会(European Early Childhood Education Research Association)で学会発表された。
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