平成29年度は1940年代から50年代までの植民地省の社会福祉政策の再編過程を明らかにした前年の成果のうえに研究を進めた。平成28年度までの調査で、上述の期間に植民地における社会福祉政策が整備されていったこと、その中でコミュニティ・デヴェロップメントがキー概念としてでてくることは把握していた。特に、1948年8月にケンブリッジ大学で開催されたアフリカ植民地行政官の会議と、1954年に植民地省が保守党の教育機関であるアシュリッジ・カレッジで開いた会議が重要であることが改めて明らかになったが、平成26年に史料収集に行った際にこの二つの会議に関わる文書を十分に収集していなかった。そこで、関係ファイルをイギリス公文書館から取り寄せて検討を行った。 その結果、1948年のケンブリッジの会議に関しては、当時関わった人物の後の発言や先行研究から「コミュニティ・デヴェロップメント」という語が正式に採用された最初の会議であるとの位置づけがなされていたが、実際には以下のことが明らかになった。 1)この会議自体は植民地での大衆教育に関する会議であって、会議ではそれまでの狭義の「大衆教育」の定義を幅広くとらえなおす再定義が行われた。 2)この再定義の内容は、その後「コミュニティ・デヴェロップメント」の定義として用いられるものと同一のものとなるが、この二つの語を同じものとして使用することを決議したのは、女性について取り上げた分科会であった。 さらに、1954年のアシュリッジ会議についても、この会議で「社会福祉」と「コミュニティ・デヴェロップメント」を包含する「社会開発」という概念が定義されたことが明らかになった。 平成29年度は情報整理で終わってしまい、現在、成果を公表するため論考にまとめている。研究年度が終わってからになるが、同時に整理した女性の活動に関するものも含めて順次論文として発表していく。
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