イントネーションやアクセント等、音声の質的要素を総称してプロソディという。自閉スペクトラム症児の話し言葉にはイントネーションの単調さや疑問文のような語尾の上昇といったプロソディ異常が観察される。そこで、本研究では、音声解析技術を活用し、自閉スペクトラム症児のプロソディ異常を定量的に分析した。これにより、自閉スペクトラム症児の早期診断の可能性について検討した。そのために、自閉スペクトラム症児と定型発達児の発話音声を収集し、データベース化した。また、本研究のために独自に音声解析プログラムを開発した。本プログラムでは音声の3大要素であるピッチ、振幅、波形のそれぞれを高次元の特徴量で評価した。本プログラムを用いて自閉スペクトラム症児と定型発達児を音声識別した。その結果、人間の聴覚による判定よりも本プログラムによる判定の方が優位であることが明らかになった。自閉スペクトラム症児のプロソディ異常は局所的なものではなく、発話全般に及ぶものであることが示唆された。また、自閉スペクトラム症児のプロソディ異常に大きく影響を与えるものは、音声の3大要素の中ではピッチであることも示唆された。さらに、発話の中でも特に序盤に、自閉スペクトラム症児と定型発達児の識別点がある可能性が示された。これには末梢気管の運動要因(発話における最初の口唇運動の固さ、発話の最初に息を吐くことに対する緊張の高さ)と中枢性要因(単語の認知)の関与が考えられた。
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