本申請課題では、コンクリートに生じる圧縮応力場が耐久性へ及ぼす影響について、各種実験を通して検討を進めてきた。平成28年度は、これまでに得られた研究成果の信頼性向上を目的に、昨年度までに実施した耐久性試験の再現実験を実施した。なお、平成28年度は、特に昨年度までに実施した再現実験において理論的に説明できない事象に着目し、改めてその実験方法や分析手法を見直し、事象の解明に努めた。 今年度実施した再現実験から得られた成果を纏めると次の通りである。これまでの成果として、圧縮応力作用下では作用応力レベルによってスケーリングの発生性状が異なり、f/σ=30%未満の圧縮応力が作用する場合、無載荷時と比較してスケーリング量が抑制されることを明らかにしている。この事象を裏付けるために実施した実験において、凍結融解に伴う細孔径分布の変化は応力強度比の違いにより異なる傾向を示し、特に、細孔径200~4000nmの領域における細孔構造の変化はスケーリングの発生に影響を及ぼす可能性が示唆された。また、コンクリートが静的圧縮載荷を受ける場合、f/σ=20%程度ではひび割れの発生は認められず、f/σ=40%程度で遷移帯に独立的なひび割れが確認され、以降は作用応力レベルの上昇に伴いひび割れが拡張・進展する様相を確認した。 以上の検証結果を踏まえて考察すると、コンクリートの弾性域に相当するf/σ=30%未満の圧縮応力は、空隙や細孔を閉塞させる方向に働き、劣化因子の浸透・拡散の観点から耐久性上有利に作用する可能性がある。また,この応力領域で生じるひび割れは、その多くが遷移帯に存在する独立性の高い微細ひび割れであると推察される。さらに、塑性域に相当するf/σ=40%以上の応力では,遷移帯に生じた微細ひび割れを拡張・進展させ,マトリクス中に連続的なひび割れ組織を形成し,コンクリートの耐久性能を低下させる。
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