研究課題/領域番号 |
25871052
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 豊橋技術科学大学 |
研究代表者 |
齋藤 暁 豊橋技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (70513068)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 量子計算 / 量子誤り / 多倍長精度計算 / 行列積状態 / 密度行列繰込群 |
研究概要 |
平成25年度は、研究計画のうち数値的側面で進捗があった。 1. 多倍長精度の行列計算用C++ライブラリであるZKCMライブラリ、およびその拡張ライブラリで時間依存行列積状態(TDMPS)を使用する量子計算シミュレーションライブラリであるZKCM_QCの開発が順調に進んだ。これらライブラリの高速かつ正確な動作は、本研究の題材である量子エラーの数値解析に欠かせないものであり、初年度の進捗としては妥当なところである。具体的には、ZKCMについてはHermite行列の対角化を高速化し、この特定の演算についてはPari/GPライブラリを越える速度を実現した。ZKCM_QCについては、Liouville空間でのTDMPSシミュレーションを行う部分を公開した。Liouville空間でのTDMPSシミュレーションでは原理的には任意のTPCP写像がシミュレートできるため、計画2年目以降のエラー解析に役立つはずである。これらライブラリはオープンソースであり、URL: http://zkcm.sf.net に公開している。 2. TDMPSシミュレーションによる量子アルゴリズムのシミュレーションは以前から行ってきたが、平成25年度は主要な量子アルゴリズムであるDeutsch-Jozsa、Grover、量子Fourier変換、Shorの各アルゴリズムについて、最新のシミュレーション結果をまとめた会議録論文を執筆した。Hermite行列の対角化の高速化の結果もここに載せている。本研究の題材からはやや離れるが、量子Fourier変換ベースの算術演算のTDMPSシミュレーションは高速に行えるという数値結果が出ており、今後の理論解析に期待が持てる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
数値的研究については予定よりもやや早めの進捗となっており、任意の量子エラーモデルでの量子エラーおよびその訂正の数値解析を行うことができる、Liouville空間でのTDMPSシミュレーションを多倍長精度で行うルーチンを公開した。具体的には、開発しているオープンソースライブラリZKCM_QCのアルファ版に、2サイト間に作用する任意のTPCP写像を扱うことができるTDMPSのルーチンを追加した。 一方で、量子エラーモデルについては、新規提案は当該年度中にはできなかった。本研究の開始前に、機器の較正誤差がハミルトニアンの結合定数に影響する場合について、 A. SaiToh, in Proc. TQC 2013, LIPICS Vol.22, pp.244-253, 2013 [arXiv:1305.4440 (quant-ph)]で論じ、量子不確定性原理に起因する較正限界が、ある種のNP困難問題をコヒーレントマシン上で解く際にハードインスタンスを生じる原因になっていることを示唆する結果を得ている。この他に新規なエラーモデルを考案する予定ではあったが、平成25年度中には既存のモデルの枠組みから外れるものは見つけられなかった。
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今後の研究の推進方策 |
当初計画では平成25年度中に、機器の較正誤差と測定に起因する、長距離相関を持った量子エラーの定式化を行う予定であった。しかしながら記述の一般化が進まなかったため、平成26年度はひとまず網羅的な手法を試すことにしたい。数値計算によって、測定を含む量子回路において、較正誤差に起因するエラーがどのように伝搬するか、まず調べることにする。なお、一般的な議論の成否にかかわらず、エラー訂正が困難になるインスタンスの自動探索は行うことができる。熱浴との接触による誤差の侵入と吸着については予定通り平成26年度以降に研究を進める。 また、当初は量子エラーのシミュレーションに、状態の純粋化を使う方法を第一に考えていたが、平成25年度中に、Liouville空間でのシミュレーションが安定動作するようになったため、後者の方法を主に使用する方針としたい。 TDMPSシミュレーションライブラリの並列化は、当初MPIを使って進めようとしたが、多倍長精度のデータ型を使用しながらのMPI並列化は困難であることが判明した。現在、OpenMPを使った並列化を模索しており、これが首尾良く実装できればさらなる高速なシミュレーションが可能となる。 量子エラーの訂正可能性問題の計算量理論的な研究は予定通り、今後行う。長距離相関があるエラーについて、符号器と復号器の生成が困難な(ハードな)問題となるようなエラー発生率の下限を求めたい。この題材については、解析的な下限の導出が目標ではあるが、数値解析による評価も下限に関して指針を与えると考えられる。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度は、海外開催の会議に投稿する予定であった概要を、国内開催のものに投稿したため、旅費が予定よりも小額になった。また、10月に異動したが、異動先の計算機環境では、当初予定よりも計算機使用料金への支出が少なくなった。 平成26年度は、当初の計画よりも国際会議での発表のための登壇料と旅費がかかる見込みであるので、繰り越した分の金額はこれに充てる予定である。
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