最終年度も引き続きスピンLiouville空間上の量子計算の高速シミュレーションのための時間依存行列積状態(TDMPS)ライブラリの改良に取り組むとともに、それを用いたシミュレーション研究を実施した。主題であるエラーモデルの評価を行うべく、当初は平均的に小さな計算資源でシミュレートできると想定していたDQC1モデル(単一の擬似純粋状態ビットと最大限混合状態レジスタを入力とするモデル)において数値シミュレーションに取り組んでいたが、結果的には平均的にも計算資源が大量に必要であることを示唆する結果となった。その一方で、研究遂行上の副産物として着想した、スピンLiouville空間上でエラー発生を積極的に利用するデジタル-アナログ変換アルゴリズムの論文を出版した。 なお本研究の初年度と二年目の成果は概して以下の通りであった。TDMPSシミュレーションのバックエンドで使用する多倍長精度の行列計算ライブラリZKCMのHermite行列の対角化速度を向上し、これに関してはPari/GPよりも高速になった。また、主要な量子アルゴリズムのTDMPSシミュレーションについて数値結果をまとめた会議録論文を執筆した。量子エラーに関しては、ハミルトニアンのパラメータにエラーが入るモデルで簡単なアルゴリズムのTDMPSシミュレーションを行ってエラーと終状態における誤差の関係について予備的な結果を得た。その他、大学院生を指導して、GPGPUで量子Walkのエラー抑制シミュレーションを実施した。 全体として、副次的な題材での成果は得たものの、主題である量子エラーモデルの評価に関しては予備的な結果に止まってしまった。ただ、本研究で得た技術的な蓄積は今後のTDMPS法自体の評価と量子エラーのシミュレーションの効率化に役立つものと信じている。
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