共蒸発分子誘起結晶化法は、研究代表者らが最近、有機薄膜太陽電池への応用を意図して考案した、真空蒸着中に液体を導入することで有機混合膜の結晶化を促進する手法である。 しかし、研究を進めるうちに、この手法は有機混合膜結晶化に限らない真空蒸着法の本質的な拡張法であることが明らかになってきた。 本研究ではこの共蒸発分子誘起結晶化法の適用範囲を結晶性有機半導体のみから、アモルファス性の有機半導体材料や無機材料などの異種材料へ拡張することを目的として、研究をおこなった。 まず上記目的のため、蒸着装置における成長制御法の精密化を進めるとともに、結晶性有機半導体として、C60・H2Pc・ルブレン、アモルファス性有機半導体としてAlq3を用いて、共蒸発分子誘起結晶化法により薄膜を作製した。その結果、上記のどの有機半導体を用いても、共蒸発分子誘起結晶化法を用いた場合に、用いない場合と比べて大幅に薄膜形態が変化することが確認された。その一方で、C60以外の分子においては、基板温度が70℃の時、基板温度の影響による薄膜中の結晶核の3次元成長を抑えられないために、成膜後の定量的な評価が難しくなる問題も露呈した。この解決策として、特にH2Pcにおいて、基板温度40℃での薄膜成長をおこなったところ、3次元成長を抑制しながら、共蒸発分子誘起結晶化法により結晶粒子の大きさを変化させることに成功した。 次に有機材料と無機材料とのハイブリッド系に材料系を拡張するため、既に精密制御可能なC60と、無機アルカリハライド材料であるLiFとの混合膜を作製したところ、共蒸発分子誘起結晶化法の有無による明確な変化は見られなかった。一方、ヨウ化金属化合物とヨウ化水素酸有機化合物との混合膜を作製すると、共蒸発分子誘起結晶化法により結晶粒子の大きさを変化させることに成功した。この変化の詳細については、今後の更なる研究が必要である。
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