研究実績の概要 |
随意運動の制御において,運動ニューロンは、大脳皮質や皮質下領域から脊髄に下行する複数の経路からの入力や末梢神経からの感覚入力を受ける。これらの経路がそれぞれどの程度運動ニューロンに対して影響を与えうるのか不明である。近年、組換え狂犬病ウイルスを用いて1シナプスだけを介したシナプス前神経細胞をラベルする手法が開発され(Wickersham et al., 2007, Neuron)、げっ歯類でpremotor neuronが同定されている(Stepien et al., 2010, Neuron)。しかしながら、先行研究では幼若時でしか成功していない。原因としてウイルスの筋肉からの感染効率の低さが考えられる。そこで、アデノ随伴ウイルスセロタイプ1でトリ白血病ウイルス受容体(TVA)と狂犬病Gタンパク質をラット上肢筋(三頭筋)に注入する事で、頚髄運動ニューロンに特異的に発現させ、TVAのリガンドEnvAでコートされた組換え狂犬病ウイルスを脊髄に注入した。そして、TVA-EnvA間の特異的結合を利用する事で、組換え狂犬病ウイルスを運動ニューロンに特異的に感染させた。その結果、いまだ成功例が報告されていない成熟ラットにおいて、premotor neuronを効率的にラベルすることに成功した。更に、大脳皮質から脊髄胸髄まで網羅的にpremotor neuronの分布を観察・定量解析したところ、延髄網様体や頚髄から胸髄にかけての脊髄、後根神経節においてpremotor neuronが検出された。一方、脊髄に軸索を投射している大脳皮質や赤核にはpremotor neuronは検出されず、これらの領域の神経細胞は三頭筋の運動ニューロンとは直接シナプス結合を形成していなかった。以上、新規premotor neuronラベル法を用いて、運動ニューロンへの入力様式を明らかにした。
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