本研究では、人々の生活必須素材である繊維材料の質感を物性・心理・脳神経の三分野から統合的に捉え、繊維材料の質感に関わる情報の関係性やそれらを繋ぐパラメータを解明することを目的とする。具体的には、(1)繊維材料の風合いに関わる物性を風合い評価(KES)法、熱物性、剛軟度等による繊維科学的評価、(2)ヒトを対象にした布に対する感覚的印象をSD法、一対比較法等を用いた心理物理学的評価、(3)視覚と触覚の情報が統合した布の質感認知についてfMRIを用いた神経科学的評価、のこれらの視点から検討した。 布サンプルは、硬さの異なる布サンプルの作製ならびに企業供与のものを使用した。各布サンプルはKES装置(Kawabata Evaluation System)を用いて布の物性を測定した。硬さの異なる布サンプルは画像化を行い、画像と布サンプルの実物体を用いて、視触覚を通じて質感判断がどのようになされるのかについて一対比較法およびSD法の心理実験(1)を行った。企業供与の布サンプルは、涼暖感・薄厚感・目の粗さ感について布サンプルの実物体のみを用いて一対比較法により視覚のみ、触覚のみの官能評価実験(2)を行い、官能評価結果と物性結果から統計解析を行った。(1)の心理実験結果より、布の画像に対する視覚的質感判断が、触覚経験に一致する形で変化を受けることがわかった。(2)の実験および解析結果より、涼暖感と薄厚感については繊維物性と心理的印象に高い相関が見られた。 さらに、心理実験と同様の布サンプル画像を用いて触覚経験の前後における質感判断の脳神経活動をfMRI計測により調べた。触覚経験により脳の視覚野に関する一部領域で変化が見られ、布の織組織や糸の太さ、硬さ判別の触覚経験が視覚的質感判断に影響することがわかった。 繊維材料の物性をヒトがどのように捉え、質感認知しているのかについて検証することができた。
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