研究実績の概要 |
本研究の目的は、視覚脱失が他者の行う動作の理解と模倣にどのような影響を与えるのか、について明らかにしようとするものである。本年度は既に取得した実験データの解析を集中的に行い、これまでの成果を本や総説としてまとめた。 1. 昨年度までに取得した機能的磁気共鳴画像データの追加解析 申請者は昨年度、視覚野の一部(EBA)が視覚経験に依存せずに、識別する体部位に対し特異的に活動することを示した(Kitada et al., 2014 Journal of Neuroscience)。この解析では急須と車を統制物体として扱っていたが、これらの統制物体の間の異同は何か?車と異なり急須は道具であり、視覚による道具の認識には動作理解の神経基盤が関与することが知られている(Bracci et al., 2012 Journal of Neurophysiology)。そこで急須や車の識別時の活動を描出し、急須と車の活動パターンの異同を検討した。Bracciらの結果と一致するように、視覚条件では急須は車に比べて、EBAを強く活動させることが分かった。しかしこのパターンは、視覚条件で見られたものの、視覚障害者触覚・晴眼者触覚条件では明確に観察できなかった。他方で、身体部位に比べて車と急須は、共通して紡錘状回を賦活させ、この活動は視覚障害者触覚・晴眼者触覚・晴眼者視覚条件でも一貫して観察された。引き続き紡錘状回における活動パターンの詳細を、表象類似度解析で検討する予定である。 2. 視覚障害者の支援技術に関する総説執筆 Dianne PawlukとRichard J. Adamsととも総説を執筆し、視覚障害に関する脳機能イメージング・心理物理学・工学研究を概説し、触覚を活かした視覚障害者の支援技術を紹介した。また英語の書籍において本研究成果を紹介した(Pervasive haptics)。
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