その可逆性もしくは流動性を変化させる目的でコレステロールを再添加して温度活性の変化を検討した結果、活性が弱くなるチャネルと変化のないチャネルがあることがわかった。脂質が温度感受性TRPチャネルの活性にどう影響を与えるかを検討するために、脂質と精製したイオンチャネルのみで構成される実験系である脂質平面膜法の確立を行っている。現在までに高温で活性化されると報告されているTRPM3タンパク質の精製および膜への挿入に成功している。また、電気生理学的手法を用いてTRPM3の解析を行った結果、TRPM3チャネルはPOPCとPOPEで構成される脂質膜中という単純な環境下では温度によって活性化されないことを見いだした。脂質膜に陰イオン性の脂質であるPGを添加すると、TRPM3の開口がみられなくなった。一方、陰イオン性ではあるが近年TRPチャネルの活性に関係すると報告されているPIP2を添加すると、活性が増強されることがわかった。特に、nifedipineによる活性化はPIP2非存在下でもみられたが、硫酸プレグネノロンによる活性化にはPIP2の添加が必須であることがわかった。Nifedipineによる活性化に対して、温度上昇はほとんど影響しないことも明らかとなった。TRPM3は温度によって直接活性化される可能性は低いと考えられる。 また、カルシウム透過性をもたない温度感受性TRPチャネルであるTRPM5の検討をパッチクランプ法、並びに脂質平面膜法を用いて行った。その結果、TRPM5の活性化には細胞内カルシウムが必要ではあるが、温度上昇に伴いTRPM5の活性は増強されることがわかった。この温度依存的な活性化にもPIP2は必要であり、PIP2が温度依存的なTRPチャネル活性化に重要な役割を持っている可能性がある。
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