研究課題
紅海大学のカウンターパートより、ハルツーム空港において近隣諸国におけるテロに対するセキュリティ強化が実施されており、観察機材の持込には3週間以上の空港待機が必要になる可能性が高いという電話連絡があった。ハルツームにおける滞在はセキュリティの都合上、1泊75USDかかるホテルを利用するため、本研究課題の予算では3週間の滞在は現実的に不可能である。そのため、調査代替地として交渉を進めていたタイ国においてジュゴンの行動観察を実施した。2014年11月10日から28日にかけて予備調査を実施した。ジュゴンのバイオロギングのための捕獲を実施し、1個体を追跡したが捕獲は成功しなかった。また、受動的音響観察によるジュゴンの行動観察のため、音響検出率を事前に評価した。観察海域に自動水中音録音装置および録音可能範囲を示すブイを設置した。観察海域に近い崖に登頂し、目視観察を同時に実施した。目視で検出されたジュゴンのうち発音した個体の割合を算出することで音響検出率を評価した。その結果、44%のジュゴンを音響的に補足できることがわかった。2015年1月25日から2月5日にかけて調査地であるタリボン島および周辺村落において調査説明会を実施した。これは、本研究課題とは別の研究グループが2015年12月に実施した調査が、住民の意思に反していたにもかかわらず強行された結果、抗議デモが起きたことと関連する。本研究課題はこの件と無関係ではあるが、住民との折衝を余儀なくされた。この説明会で受動的音響観察に関しては許可が得られたものの、バイオロギングについては許可が得られなかった。2015年2月11日から3月11日にかけて、タリボン島において受動的音響観察を実施した。本調査によって、ジュゴンの行動に関する環境条件の影響が明らかになることが期待される。
3: やや遅れている
スーダンにおける調査が予算の都合上、現実的に困難になり代替の調査地として交渉を進めていたタイ国においてバイオロギング調査を実施した。しかしながら、本研究課題とは別の研究グループによる調査への抗議デモが発生し、その余波で本研究課題のバイオロギングの許可がいったん取り消しとなった。住民への説明会を重ねて、自治体からの調査許可を得ることはできたが、県知事からは世論のほとぼりが冷める時期まで保留するよう進言された。来年度には調査許可が得られる約束はもらったが、今年度にバイオロギング研究を実施することはできなかった。一方、自動水中音録音装置を用いた受動的音響観察については30日間にわたる長期間のデータを得ることができた。本調査によってジュゴンの行動にかかわる環境条件がどのように影響しているのか明らかにできる可能性がある。これはジュゴンの生態解明に大きく貢献する。上記の通り、バイオロギング研究の実施には至らなかったが、受動的音響観察によるジュゴンの生態解明は十分に期待できる。そのため本研究課題の自己評価を「やや遅れている」とした。
平成27年度はタイ国トラン県タリボン島の雨季(11月)と乾季(2月)においてジュゴンを捕獲し、GPS・音響ロガーを装着し、詳細な行動観察を行なう。1回の実験で約2週間分の行動データを取得する。延べ5個体のデータを取得する。<データ解析:ジュゴンの行動圏と摂餌時間・場所・量の解明>GPS・音響ロガーに記録されたジュゴンの摂餌音の時刻と回数から、ジュゴンがいつ、どれだけ食べたのか(摂餌時間と相対的な摂餌量)を推定する。GPS により得られた位置情報をもとに地理情報システム(GIS)をもちいて行動圏を算出する。<データ解析:重要な摂餌場の特定、それぞれの環境条件の精査>ジュゴンの移動軌跡と摂餌音の情報から摂餌場を特定する。摂餌場における利用頻度、摂餌量などを比較し、それぞれの摂餌場の重要度を相対評価する。GIS を用いて、重要な摂餌場のレイヤーを作成する。さらにタリボン島周辺海域の環境条件(海草藻場、深度など計測済み)をレイヤーとして構築し、摂餌場のレイヤーと統合することでそれぞれの摂餌場の環境条件を精査する。調査海域のメッシュ処理を行い、重要な摂餌場と類似した環境条件を有するメッシュを可視化し、特に保護すべき海域の指針とする。<研究発表>本研究結果を日本水産学会および海産哺乳類学会において発表する。
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Mammal Study
巻: 36 ページ: 121-127
http://dx.doi.org/10.3106/041.039.0208
http://bg66.soc.i.kyoto-u.ac.jp/ichikawa/kotaro/HP.htm