研究課題/領域番号 |
25871062
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
市川 光太郎 京都大学, フィールド科学教育研究センター, 准教授 (70590511)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ジュゴン鳴音 / 受動的音響観察 |
研究実績の概要 |
2015年2月5日から28日にかけて、タイ国トラン県タリボン島において連続20日間の受動的音響観察を実施し、摂餌場とその沖側の地点について、ジュゴンの発声頻度行動と潮位・潮流との関連を調べた。一時間あたりの発声頻度に対する流向、流速、水深、時間帯の影響について、負の二項分布を仮定した一般化線形モデルにより推定した。検出された全鳴音数は、摂餌場が2052、沖が6607であった。二地点の発声頻度は沖の方が有意に高かった(Wilcoxon signed rank test, p < 0.001)。両地点ともに、夜間に発声頻度が高かった(Mann-Whitney U test、浅瀬:p < 0.001、沖:p < 0.001)。発声頻度の変動について、摂餌場では12.00時間周期および23.53時間周期や7.20時間周期など、沖では24.47時間周期で強いピークが見られた。モデル解析の結果、0.75-1.5 m と1.5-2.25 m の潮位帯は発声頻度に正の影響を与えた。 2015年8月22日から9月6日かけて、マレーシア・ジョホール州ティンギ島周辺の4地点において受動的音響観察を実施した。それぞれの地点において1時間当たりの鳴音数を応答変数とし、時刻を説明変数とする一般化線形混合モデル(GLMM)による解析をおこなった。応答変数の誤差分布はポアソン分布に従うと仮定し、調査地点をランダム効果と設定した。GLMMによる解析によって午後もしくは夜間に鳴音が増加することが分かった。 鳴音数の変動のピークは12時から19時の間にあった。 冷水期のタイ国では夜間に、温水期のマレーシアでは正午以降日没までに摂餌場に来遊した。両海域は同じ気候帯に属しているため、季節的な回遊に大きな差異はないとすると、温水期と冷水期でジュゴンの摂餌回遊パターンが異なる可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ジュゴンの受動的音響観察を中心に調査を進めた。温水期と冷水期におけるジュゴンの行動と環境条件の関連について、長期間のデータを用いた検証をおこなった。このような研究は過去に例がなく、ジュゴンの生態理解に貢献することが期待される。本研究の結果を著書1報、招待講演2報、国際学会2報、国内学会1報としてとりまとめ、発表した。また、これらの業績は学界内外でも認められ、国際学会セッションチェアー1件、辞書編集委員1件、さらに高校生研究インターン制度の受け入れ2件を担当した。 以上から、本研究の進捗はおおむね順調であると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
補助事業の目的をより精緻に達成するための学会参加および論文投稿などを中心に進める。現地調査における傭船や機材運用の点で効率的な研究遂行の結果、研究費の節約ができたため、その未使用額を用いて、より大きな場での成果発表と精緻な研究遂行のための情報収集を行う。特に、インドネシアにおけるジュゴンの生態に関するシンポジウムに参加し、成果発表と情報収集を行う。さらに、平成28年度に開催される、音響学の分野で最大規模の日米音響学会ジョイントミーティングに参加する。また、Journal of Zoo and Aquarium Researchへ論文を投稿する。
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次年度使用額が生じた理由 |
現地調査における傭船や機材運用の点で効率的な研究遂行の結果、研究費の節約ができた。その未使用額を用いて、より大きな場での成果発表と精緻な研究遂行のための情報収集を行うため、補助事業の期間延長を申請し、厳正な審査の上、承認された。
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次年度使用額の使用計画 |
4月19-22日にインドネシアに渡航し、ジュゴンの生態に関するシンポジウムに参加し、成果発表とボゴール農業大学との共同研究について情報収集を行う。さらに、平成28年度に開催される、音響学の分野で最大規模の日米音響学会ジョイントミーティングに参加する。また、Journal of Zoo and Aquarium Researchへ論文を投稿する。
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