研究課題/領域番号 |
25871065
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
武田 和久 早稲田大学, 高等研究所, 助教 (30631626)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | イエズス会士 / グアラニ先住民 / 住民名簿 / カシカスゴ / 軍事 |
研究実績の概要 |
本年度は先行研究を通じて把握できていたブラジル、リオグランデドスル州の歴史文書館が所蔵するグアラニ先住民名簿の調査・分析に研究の主眼を置いた。これは18世紀中葉のグアラニ戦争時に強制・自発双方の理由でブラジルに移ったグアラニがポルトガル人の指導のもとで建設した居住地の住民に関する名簿で、彼らの氏名や年齢を記されている。 スペイン領アメリカでイエズス会士が設立・運営したレドゥクシオンと呼ばれる先住民布教区では、個々のグアラニは、氏名や年齢に加えて、カシカスゴと呼ばれる先住民首長が統括する社会組織の一員として名簿に登録されていた。つまり全ての住民はいずれのカシカスゴに所属していたのか、名簿を見ればひと目でわかる仕組みになっていた。こうした名簿のフォーマットはすべてのレドゥクシオンで踏襲され、これがおよそ150年続いていた。これに対して、リオグランデドスル州歴史文書館が有する名簿にはカシカスゴに関する記述は存在せず、またほとんどのグアラニの氏名はポルトガル風に変更されて記載された。 名簿上のこうした異なる特徴は、おそらくスペインとポルトガル双方の植民地政策の根幹の違いを示唆するのだろう。前者では先住民の在来の慣習、制度、社会組織等の中でも、植民地体制の維持と補完に役立つとみなされた要素は巧みに活用されていた。この事実は、J. Rappaport and T. Cummins, Beyond the Lettered City (Durham, 2012); J. R. Mumford, Vertical Empire (Durham, 2012) により近年明らかにされた。これに対してポルトガル領ブラジルではいかなる方針のもとで先住民の統治が実践されていたのか、18世紀中葉・後半のポンバル侯爵の植民地政策を視野に入れながら、今後さらに研究を進めていく方針である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は、日本ラテンアメリカ学会第35回大会(関西外国語大学)にて、研究発表「カシカスゴのバリオへの統合―スペイン統治期ラプラタ地域のイエズス会グアラニ布教区の事例―」を行った(2014年6月7日)。この発表では、(1)ラプラタ地域のイエズス会グアラニ布教区において、先住民組織カシカスゴが複数まとめられて一つのバリオと呼ばれる街区が設けられていたこと、(2)バリオには少なくとも主要とそれ以外の二種類が存在し、主要なバリオに属するカシカスゴの威信が布教区内で尊重されていた可能性を、住民名簿と先住民首長の氏名リストの比較分析を通じて明らかにした。 また2014年8月26日には、教皇庁立チリ・カトリック大学で開催された第15回イエズス会布教区国際会議にて、スペイン語による研究発表「イエズス会布教区における軍事組織―スペイン軍事組織とグアラニ・カシカスゴとの関連―」を行った。この報告では、軍事役職者が属するカシカスゴが主要とそれ以外どちらのバリオを構成していたか、軍事役職者名簿と住民名簿との比較分析の結果を公にした。この報告は、ブエノスアイレス大学のM・アベジャネーダ博士や、リオグランデドスル連邦大学のE・ノイマン博士から高く評価された。また会議終了から程なくして、ドウラード連邦大学のG・チャモロ博士より連絡が入り、本研究発表に関する資料提供が依頼された。同博士はフランス社会科学高等研究院のJ・C・エステンソロ博士と国際共同研究を進めており、エステンソロ博士もこの発表を高く評価していたと伝えられた。 さらに2014年11月7日には、同年9月1日に発足した早稲田ラテンアメリカ研究所の第1回研究報告会において、「スペイン領アメリカならびにポルトガル領ブラジルにおける先住民統治政策-カシカスゴを中心に-」という研究発表を行った。これは上記「研究実績の概要」に記した調査結果をもとに行われた。
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今後の研究の推進方策 |
17世紀後半のイエズス会グアラニ布教区で作成された住民名簿のデータ入力は順調に進んできており、これと、同時期の布教区それぞれに存在した先住民軍事役職者の氏名を列挙した名簿の照合作業を進めている。まだ全容の解明までには時間が必要だが、現時点で言えることは、大方の布教区において、軍事役職者が、前述の主要とそうでない双方のバリオにほぼ均等に属していたことが明らかになってきた。軍事役職は、布教区内に設けられた要職に相当し、役職者は一般のグアラニとは異なる社会的地位と名声を得ていた。住民名簿における彼らのこうした分布結果は、布教区内でグアラニ同士の勢力均衡を図ろうとするイエズス会士の意図が関係しているのかもしれない。今後さらに全体像の解明に向けて研究を進めていく。 カシカスゴとバリオの関係については、スペイン語論文「イエズス会のグアラニ布教区における集住政策の社会文化的帰結-カシカスゴの変容と新アイデンティティの誕生」として、『先住民集住政策を論じる-スペイン王国支配地におけるそのインパクト-』というスペイン語論集に収録される学術論文として、ペルー・カトリック大学出版局から公になる予定である。 イエズス会グアラニ布教区住民名簿の大半はアルゼンチン、ブエノスアイレスの国立文書館に所蔵されており、これについては2010年度の同地における在外研究時に包括的な調査ならびにデジタル媒体による複製を完了した。しかしそれから数年経ち、一部の名簿に関しては原本を再確認する必要性が生じてきた。こうした理由により、同文書館において短期間ながらも調査を検討している。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の研究費の大半は平成26年8月に実施したブラジル海外学会研究出張として支出されたが、計算の結果、残額として微量ながら200円が残ったため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度に予定している研究出張費とあわせて支出する。
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