研究課題/領域番号 |
25871067
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
花坂 哲 筑波大学, 人文社会系, 特任研究員 (70512870)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 民族考古学 / 文化人類学 / 手工業技術史 / 製革・鞣製業 / 国際情報交換 / ガーナ:エジプト:オランダ |
研究概要 |
本年度は、夏季にエジプト・アコリス遺跡の発掘調査に参加し、皮革工房址の遺構調査および出土遺物の研究を進める予定であった。しかし、2013年7月に起こった政変により、現地調査の許可が下りず、発掘調査は断念せざるを得なかった。そこで、エジプトを経由し、8月~9月にガーナ共和国に赴き、北部州タマレにある現代皮革工房での文化人類学的調査を実施した。 ガーナ・タマレでの製革業は、数世代前にナイジェリア北部から移住してきたハウサ族が従事している。ここでの製革工程の特徴は大きく4つある。1つ目は、脱毛処理に石灰を使う地域が多い中で、植物灰を使っている点である。2つ目は、鞣し剤や染色剤は、輸入品ではなく現地産の植物を工房で粉砕して使用する点である。3つ目は、鞣しに使用する水槽が大型のものではなく、高さ40cm、胴部径50cmほどの広口鉢を使用する点である。これは、製革には大量の水を必要とする「常識」を覆すものであり、水の獲得や排水が難しいと思われるアコリス遺跡で検出された皮革工房においても、製革が可能であることを想起させる。4つ目は、長期間の作業工程が必要とされる植物タンニン鞣しであるが、1週間ほどで、原皮から革に仕上げる点である。 ガーナ・タマレで行われている製革方法は、近傍で手に入る材料を使用して、全て手作業で行っており、かつ水の使用量が少なく、作業期間が短いなど、古代の製革方法復元の指針となるものであった。 ガーナでの調査後にエジプトおよびオランダを訪問し、博物館等での情報収集および研究者との情報交換を行った。帰国後はガーナでの文化人類学的調査の成果を整理し、古代の皮革業や民族誌の文献の精読を進めている。また、本研究成果の一部は、3月に名古屋大学で行われたシンポジウムで口頭発表による成果公開を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
エジプトの政変という、不可避な出来事によって考古学的調査は行うことができなかったが、これまでにアコリス遺跡で出土している資料の集成と、皮革製品の製作技術の検討を進めている。 H25年度実施したガーナにおける文化人類学的調査の成果は大きなものであった。大型の鉢を用いた製法は、古代エジプトの壁画に描かれた製革場面に通じるものがあり、アフリカの民族誌が古代技術の復元に寄与することが明らかとなっている。 現在のところ、所期の目的、計画ともに変更の必要はない。ただし、理化学的分析にやや欠けるところがあったことは課題として残る。
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今後の研究の推進方策 |
エジプトにおける考古学的調査については、H25年度の後半には外国隊による遺跡調査が再開されており、2014年夏に予定しているアコリス遺跡の調査申請もすでに終えている。今後、不測の事態が起こらない限り、調査遂行は可能であり、現在のところ本課題の推進に大きな障害は見当たらない。 文化人類学的調査については、ベルベル語やハウサ語などの特殊言語で使用されている皮革関係の用語に不明なものがあるため、筑波大学に在籍している留学生に翻訳を依頼することで解決をはかる予定である。 理化学的分析については、皮革などの分析用サンプル試料の下処理を進めており、2014年度の春に分析を依頼する。
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