アフリカの現代皮革工房の民族調査により、河や井戸から運んだ少量の水と土器を用いた製法の知見を得た。これは水場から離れた立地や、大型水槽が検出されないなどの、考古学的調査から生じた古代工房址の疑問を解消する手がかりとなった。考古資料や民族資料などから多角的に検討した結果、古代エジプトの王朝時代には、すでに植物タンニン鞣しが行われていたことが立証された。また、遺物の研究から、当時の庶民の日常生活に皮革製履物が根付いていたことが明らかとなった。すなわち、従来説よりも植物タンニン鞣しの起源が遡ることが指摘できた点、古代民衆の服飾や食生活の在り方に再考を迫る結果が得られた点に、本研究の成果がある。
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