研究課題
本研究の目的は、唾液腺腫瘍において細胞診の診断精度をあげて治療選択および予後予測に役立てることにある。唾液腺癌は耳下腺発生が多く、生検が困難で術前診断には穿刺吸引細胞診が実施される。また、唾液腺腫瘍は一部の成分のみでの全体像の把握は難しく、診断確定は困難である場合が多い。1)従来の治療の問題点 唾液腺癌の治療は手術が第1選択で補助的に放射線化学療法を実施している。切除不能な場合には、細胞診で組織型を確定することなく放射線化学療法を施行することが少なくない。近年HER2陽性の唾液腺癌に関しては、術後化学療法としてHER2を標的とした治療の有効性が示されつつあり、組織型に基づいた化学療法の選択が可能となりつつある。そこで、組織型別の奏効率を検討し報告した。2)組織学的悪性度評価の意義 既存の悪性度分類や、唾液腺導管癌の多施設共同研究においても同時に進めている核グレードなどを用いた悪性度分類を行うことにより、予後の不良な群を抽出し、治療を行うことが可能となる。これらの検討を行い報告した。3)融合遺伝子による分類の意義 形態的に良悪性腫瘍で類似したものがあり、形態のみで組織型を確定することは難しいことから免疫染色や融合遺伝子の検索が必要となる。高悪性度の癌の場合にも、時に低悪性度に分類される腫瘍から高悪性転化により発生した腫瘍が含まれ、融合遺伝子の検出によりもとの組織型を確認することが可能な症例があった。既知の融合遺伝子を組織切片上で検討し、既報告と同様の結果が得られ、形態診断と融合遺伝子の発現は一致したが、ごく少数例不一致の症例があり報告した。細胞診検体においても、組織切片での陽性率や分布と同様に検出できた。特に形態的に核異型が弱く、他の類似する組織型の多く存在する腺様嚢胞癌についてはMYB, NFIBのFISH検討が有用であり、7割程度の症例を検出できることが解かった。
3: やや遅れている
既知の融合遺伝子については予定数の検索が終わった。検索により、融合遺伝子の発現と組織型は概ね報告と矛盾ない結果であった。融合遺伝子の検索と形態学が合わないものについては報告を行ってきた。融合遺伝子の確認される組織型は臨床上は悪性腫瘍であっても、局所制御が可能な場合が多く経過も良好である。しかし、融合遺伝子のみつかっている腫瘍のうち腺様嚢胞癌の場合は特に経過の不良な群があり、追加治療の適応となる。しかし、これまでの化学療法では効果が得られないことから、早期に手術を行うか新たな治療標的を探すことが必要となる。良性腫瘍との鑑別が難しい形態的特徴から、診断確定が遅れることにより進行してしまう。診断確定のためには形態学的な検索以外に融合遺伝子の検索が有用なこと、融合遺伝子の検索は細胞診でも可能なことを報告してきた。しかし、既知の融合遺伝子では7割程度の腺様嚢胞癌だけが陽性となるが、残りの3割を診断を確定できる融合遺伝子をみつけることが重要である。本研究期間の終了直前に腺様嚢胞癌の融合遺伝子としてMYB以外のものとしてMYBL1が同時に3つの論文が報告された。本研究において腺様嚢胞癌の検索は重要な意味を持つことから、この因子の解析を追加で実施している段階にあり、研究期間の延長を申請した。
現在、婦人科領域では一般的となった液状化検体であるが、扁平上皮系の病変については従来法と遜色なく検索が可能であることは報告されている。従来法と液状化検体での唾液腺腫瘍での検討も報告されており、今回の検討では液状化検体は切除材料からの作製し、形態観察は可能であった。組織型を確定するうえで重要なAndrogen receptor、p63などについては、細胞診検体でも核に染色される抗体であることから、良好な結果を得たが、smooth muscle actinやS100など筋上皮系マーカーは難しく、筋上皮系マーカーとしては新しく報告されたsox10を応用できる可能性がある。また、液状化検体の少数例でFISHの検討を試みたが、腫瘍細胞が分散しており、プローブ消費量が多くなってしまい実用的ではないことから、捺印検体での実施に切り替えたことで、検討可能な症例が増えた。現在、捺印細胞診でのFISHの条件は定まり、検討症例を蓄積している段階にある。様々な組織型で検討は可能であるが、形態的に核異型が弱く、他の類似する組織型の多く存在する腺様嚢胞癌についてはMYB, NFIBのFISH検討が有用であり、7割程度の症例を検出できることが解かった。しかし、残りの3割については不明であった。本研究期間の終了直前に腺様嚢胞癌の融合遺伝子としてMYB以外のものとしてMYBL1が同時に3つ報告された。本研究において腺様嚢胞癌の検索は重要な意味を持つことから、この因子の解析を追加で実施し、臨床的な経過を比較検討を行う予定である。
補助事業の目的をより精緻に達成するための研究の実施(追加(再現)実験の実施や学会参加、論文投稿)のため
唾液腺癌においては融合遺伝子が診断上あるいは予後を予測するうえで有用であり、日々新たに発見されている。これまでに既知のものに新たな因子も検討に加えてきたが、2016年2月に報告されたMYBL1に関する3報の論文の内容を受け、この内容を含めた結果を最終的に学会発表や論文投稿に盛り込みたいと考えます。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (6件) 図書 (3件)
Acta Otolaryngol.
巻: 20 ページ: 1-4.
Ann Surg Oncol.
巻: 23 ページ: 2038-45,
10.1245/s10434-015-5082-2