本研究課題では、ポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼの一員でWnt経路の活性化に寄与するタンキラーゼに結合する新規タンパク質TANKS1BP1(TAB182)の解析を中心に行うことにより、浸潤・転移能獲得の分子機構ならびに臨床がんとの関連を解明することを目的とした。 1)TAB182による細胞浸潤能制御と同制御機構に対するタンキラーゼの関与 ヒト線維芽肉腫細胞においてTAB182の発現抑制はROCK-LIMK-cofilin経路(ROCK経路)を活性化し細胞浸潤能を亢進させる。TAB182はアクチン細胞骨格制御に関与するアクチンキャッピング蛋白質と結合し、同結合の有無がアクチン細胞骨格制御に重要であることを見出した。また、タンキラーゼ過剰発現細胞もROCK経路を活性化し細胞浸潤能を亢進させるが、この時TAB182の発現量に変化をおこさずにTAB182とアクチンキャッピング蛋白質の結合を抑制する。タンキラーゼのポリ(ADP-リボシル)化を抑制するとROCK経路の活性化は阻害され、細胞浸潤能の亢進もポリ(ADP-リボシル)化活性に依存すること、さらにタンキラーゼはTAB182をポリ(ADP-リボシル)化することから、タンキラーゼによるTAB182のポリ(ADP-リボシル)化がアクチンキャンピング蛋白質との結合を阻害し、ROCK経路の活性化と細胞浸潤能の亢進に寄与していることが考えられた。 2)臨床がんの浸潤におけるTAB182発現変動の意義 TAB182の発現変動が臨床がんでも観察できるかがん組織アレイを用いて検討し、特に膵がんでは正常膵管細胞に比べて有意な発現低下がみられた。さらに膵がんのなかでも非浸潤部に比べて浸潤部でTAB182の有意な発現低下が認められた。 本研究課題の成果はTAB182やタンキラーゼを標的とした新たながん抑制法の開発につながることが期待される。
|