大脳基底核神経回路には線条体からの出力経路として、黒質網様部に投射する直接路と、淡蒼球を介する間接路がある。直接路と間接路は、回路全体としては拮抗的に作用し、そのバランスにより機能を果たしている。しかし二つの経路の神経細胞は形態的・電気生理学的にも違いがなく、それぞれの経路がどのような機能を果たしているか不明であった。 私はこれまでに、受動的忌避学習には腹側線条体側坐核の間接路におけるドーパミンD2受容体の不活性化が重要であることを明らかにした。受動的忌避は行動を起こさないことで危険を回避する忌避行動であるが、忌避行動には、逆に危険を予測し積極的に回避する能動的忌避がある。本研究では、能動的忌避学習において、どのような線条体回路が重要で、どのような制御がなされているかを解析することで、大脳基底核回路の制御メカニズムの解明を目的とした。 経路特異的に破傷風菌毒素蛋白を発現させることで、直接路または間接路を選択的に神経遮断する経路特異的神経伝達遮断(reversible neurotransmission blocking: RNB)法を用い、能動的忌避学習にどの経路が重要であるかを解析した。その結果、側坐核の直接路を神経遮断した場合に能動的忌避学習が阻害されることがわかった。また、直接路遮断とD1受容体阻害剤とを組み合わせることで学習が阻害された。以上の結果より、能動的忌避学習には、側坐核の直接路におけるドーパミンD1受容体が重要であることを見出した。
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